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梨木香歩 沼地のある森を抜けて


 梨木香歩は先日読んだ「家守綺譚」が素晴らしかったので、その勢いもあって、「家守綺譚」を書くきっかけとなったという「沼地のある森を抜けて」に手を伸ばした。丁度いいタイミングで文庫化されていてラッキーだった。

 梨木香歩の作品というと以前「西の魔女が死んだ」を読んですっかり見くびっていた。「家守綺譚」が素晴らしかったので過小評価していたと反省したのだが、これを読んだら唖然としてしまった。これはもはや世界的なレベルに達した作品だ。ガルシア・マルケスやレムやカルヴィーノと同レベルの作品だといっても過言ではない。なぜ彼女はノーベル文学賞の候補にならないのだろう。梨木香歩は村上春樹などよりもはるかに優れた作家だと思う。

 主人公久美は亡くなった叔母から、マンションとぬか床を相続する。このぬか床は久美の祖母から母へ、そして母の妹である叔母へと受け継がれてきたものだった。だがこのぬか床は普通のぬか床ではなかった。久美はある日ぬか床の中に卵らしきものがあることに気づく。やがて孵った卵から少年が現れる…

 というはじまり方をするこの作品、以前読んだ小川洋子の「薬指の標本」や、川上弘美の「蛇を踏む」のような不条理系かと思わせるのだが、主人公久美がしっかりしたリアリストなので読者も不条理世界にいきなり引っ張り込まれずにすむ。このへんがこの作家のほかの作家より一枚上手なところなのだろう。そして壮大かつ矮小なSF的世界が展開する。ぬか床の人々はまるでレムの「ソラリス」の「お客」のようでもある。
 前半部分は「ソラリス」を思わせるぞっとするようなシーンもあり、叔母の遺した日記を読むシーンは「ソラリス」でクリスが「小アポクリフォス」を読むシーンを思わせる。
 そういえばタルコフスキーはレムの「ソラリス」を映画化するに当たって、『「お客」が現れる』というプロットだけを現代劇に持ち込もうと考えたそうだが、『「お客」が現れる』というプロットを現代日本に持ち込んだのがこの作品と言えなくもない。
 この作品ではさらに日本風の味付けが効果を上げている。「ぬか床」という純日本風の仕掛けから、久美の先祖が住んでいた島の昔語り(ここはまるで横溝正史の作品のような語り口になる)まで幅広い表現も魅力的だ。
 そんな中で「かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話」という、久美とは全く違う世界の物語が所々に挿入される。これは全くのファンタジー的な内容で、それはどう考えても日本の風景では、いや世界のどこにも存在したことのないような風景が展開する。これはやや唐突な印象で、どう捉えるべきなのか今ひとつ理解できなかったのが残念。
 ともあれ、全体では考え抜かれた構成とかなり異常な内容を持ちながら、柔らかい語り口で違和感なく読ませる見事な作品になっている。

 マクロとミクロ、無性と有性、リアルとファンタジー、あらゆるものが反発しながら渾然となって一つの世界を形作る極めてワン・アンド・オンリーな作品。すべての文学ファンにお勧めできる傑作である。SFファン、レム、特に「ソラリス」が好きな人も必読。この作品自体が「ソラリス」へのオマージュなのかもしれないとまで思ってしまう。



 というわけで今年のテーマだった「日本人作家の作品を読む」は今回で一応終了です。最後の方で「家守綺譚」「掌の小説」そしてこれと、素晴らしい傑作を読めて結果的にはなかなか上首尾だったと思います。来年は…なんにしようかな。
.16 2008 日本文学 comment5 trackback0

comment

おお~そんなにいいんですかッ!! 意外だなあ。
「ぬか床」だなんて、漬け物が嫌いなワタシにはまったく魅力を感じられなくて、タイトルが気になりながらも手に取ったことがありませんでした。
お正月にゆっくり読むために、とっておきます。
piaaさんのおかげで楽しみができました。
ありがとうございます。

忙しい年末に風邪って辛いですね。 どうぞお大事に。

2008.12.18 00:08 | URL | vogel #9JN9NMwM [edit]
「ソラリス」好きな人必読ときいて、ぜひ読みたくなりました。
今ちょっと長編に手が出し難い状況なので、年始のお休みのあたりにでも読めたらいいなあと思います。
でも、我慢できなくて、読んでしまうかも。・・・とりあえず、積読に招いておきます。
2008.12.18 12:51 | URL | ふくろう男 #- [edit]
vogelさん

う~ん、ただこの作品は読み手を選ぶことも間違いなさそうなんですよね~。SF的なものに抵抗がない方ならすっと入っていけると思うんですけど…
ただ、こういう世界をかっちり構築してしまうこの作家の懐の広さには驚かされます。

ふくろう男さん

「ソラリス」を現代日本を舞台に構築しなおしたとも言える作品なのですが、作品の手触りはかなり異質です。「お客」のアイディアを梨木がどう料理したか、という観点で見てもすごい作品だと思います。
2008.12.18 23:28 | URL | piaa #- [edit]
梨木氏のこの作品に対する構想は日本人離れした大きさがあってうれしくなるのですが、正直苦手なタイプの作品でした。
なんていうのか、作品の中で語られる重要な思想や、全てのことが、結局情緒的なものに回収されてしまい、矮小化されている気がするのです(文学を読んでおいてこんな言い草は不当でしょうか?)。
タルコフスキーのソラリスへのアプローチに近い感じがします。
単に好みの問題というのもあると思いますが、私は「家守奇譚」の方が断然好きです。重要だと思います。文学だなあと思います。
「続・家守奇譚」を期待します。


2008.12.20 17:04 | URL | ojyamasimasu #- [edit]
>全てのことが、結局情緒的なものに回収されてしまい、矮小化されている気がする

確かにその通りです。ですがそれこそがこの作品の持ち味で、だからおっしゃる通りレムの「ソラリス」よりもタルコフスキーの「ソラリス」に近い印象がありますね。

こういう作品で、これほど日本人であるというアイデンティティを生かしたものはあまりないと思うんです。そういう日本的なものを含んでいる点、そして隙のない構成で「世界的なレベルに達した作品」だと思います。

私も一つの作品としては「家守綺譚」の方が好きだし、上だと思いますね。ハードカヴァー買っちゃいましたし。でも続編は…読みたいような、読みたくないような。
2008.12.20 23:29 | URL | piaa #- [edit]

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