サマセット・モーム お菓子と麦酒

2008-12-11-Thu-23:00

 稀代のストーリーテラー、サマセット・モーム。先日読んだ「月と六ペンス」が非常に面白かったので手にとってみた。これは作家トマス・ハーディ夫妻をモデルに描いたある作家とその妻の物語…と言っていいのだろうか。

 実はモームはこの作品で、トマス・ハーディの伝記を書こうとしたわけではないようだ。この作品はアッシェンデンという語り手が、若い頃交流のあったエドワード・ドリッフィールドという作家の伝記を書こうとする友人に訪ねられたことがきっかけになって、若き日のドリッフィールド夫妻との交流を思い出すという形で語られていくのだが、いつの間にか物語の焦点はドリッフィールドの妻ロウジーへ移っていく。

 このロウジーというヒロインは際立った美人ではないが人を惹きつける魅力を持った奔放な女性で、語り手を含めて様々な男性と関係を持つのだが、そういうタイプの女性がこれだけ明るくさっぱりと描かれた作品はそうざらにないであろうと思われる。そういう女性像を作り出したというだけでも価値がある作品といえるかもしれない。ちなみに実際のトマス・ハーディ夫人とは全く無関係なキャラクターなのだそうだ。
 そして作者が「ストーリーテラー」と呼ばれるだけのことはあって、その物語の運びの巧みさは見事だ。前半がやや読みづらい感じがあるが、中盤からは一気に読ませる。
 ただし翻訳が恐ろしく古臭くて非常に読みにくい。なかでも「私」を「妾」と書くのは全くいただけない。最近再発されていた角川文庫版の方が読みやすいのだろうか。

 さて、読んでる分にはいいのだが、このロウジーという女性は果たして魅力的なのだろうか。そりゃアッシェンデンや、その他の男性登場人物には、誰にでも惜しみなく愛を分け与えてくれる素晴らしい女性だったろう。だが彼らだってこの女性と結婚したいとは思わないだろう。夫のエドワードにしてみたらたまったものではない。それでもエドワードの創作の源泉足りえたのだからそれでよいという意見もあるのだろうが、私にはロウジーは魅力的であったとしても真の意味で「素晴らしい女性」などとは思えない。

 題名の「お菓子と麦酒(Cakes and Ale)」は、シェイクスピアの作品などにも見られることばで、「人生を楽しくするもの」を示す決まり文句なのだそうだ。女性のことを指してそう言っているのであれば、それは差別的でもはや古い感覚と言わざるを得ない。ロウジーの目から見たら、アッシェンデンたち男どもこそ「お菓子と麦酒(Cakes and Ale)」なのだから。

COMMENT



2008-12-14-Sun-00:03
これは面白かったですね。
僕も後半にかけて一気に読んでしまいました。

ロウジーの描き方は確かに魅力的なんですが、
自分もこの手の人は苦手です。

自分が読んだのは角川文庫版でしたが、
表記や表現の古さは特に感じませんでした。
ただ、発売から1ヶ月ほどだったのに
おいてある書店が少なくて、探すのが大変でした。
せっかくの復刊だったのにもったいない。

2008-12-14-Sun-23:37
ANDREさんこんばんわ

そうですよね。面白かったんですが、ヒロインの傍若無人ぶりになにか釈然としない気持ちが残りました。

角川文庫版、全く見かけません。部数が非常に少なかったとか…?

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