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プリーモ・レーヴィ 天使の蝶


 光文社古典新訳文庫の、ロダーリの「猫とともに去りぬ」、ブッツアーティ「神を見た犬」に続く関口英子氏の翻訳によるイタリアマイナー作家短編集の第3作。レーヴィは戦時中にパルチザンとして戦って捕虜になり、アウシュビッツに送られながら生還し、その体験を書いた「アウシュビッツは終わらない」などで有名な作家らしい。

 そのレーヴィが1966年に発表したこの短編集は、そういう重苦しさとは無縁なもので、荒唐無稽なSF的な作品が並んでいる。冒頭の「ビテュニアの検閲制度」は検閲制度を効率的にするために国が選んだ方法について書いた作品。いきなりレム的な世界が展開する。短い作品だが強力なインパクトがある。「詩歌作成機」はなぜか戯曲形式で、詩人のオフィスを舞台に、詩を作る機械を導入した顛末を描く作品。レムにも「宇宙創世記ロボットの旅」に似たような機械が登場するエピソードがあった。「宇宙創世記…」の発表は67年。ほぼ同じ頃に同じようなアイディアで作品をモノしていたわけだ。さらにこの作品のラストでは、この作品自体が詩歌作成機によって書かれた事になっているというひねり具合が楽しい。この「詩歌作成機」をはじめ数作がNATCA社のセールスマン、シンプソン氏が出てくるシリーズ物になっていて、作品集中に何度も出現するというのも面白い。
 「転換剤(ヴェルサミン)」では苦痛と快楽が置き換わってしまう恐るべき薬品の恐怖を描く。その視点のシニカルさはやはりレムを思わせる。「眠れる冷蔵庫の美女」では冷凍睡眠によって年に何時間かだけ起きる美女の物語を、これまた戯曲形式で描き、その意地の悪い幕切れもなかなかいい。
 表題作「天使の蝶」は、廃墟となった戦後間もないベルリンのアパートの一室。ここには大戦中レーブという男が住んでいて、人間の更なる進化について研究していた…という物語。このアイディアは普通に書いちゃうとくだらないSFになってしまうのだが、レーヴィはこれを戦後の調査結果として報告する形で書いている事によって不気味さを強調する効果をあげている。
 シンプソン氏シリーズではなんと言ってもラストの「退職扱い」が興味深い。これには「トレック」という機械が出てくる。これは、装着すると、記録された他人の体験を完全に追体験できるという代物。ディックの作品などにはよくあるアイディア。
 人がテクノロジーによって生活が便利になる一方でなにかを失っていくことを50年前にはっきり予言した作品集だともいえる。しかしいずれも楽天的な印象で読みやすい。

 SFとして読んで全く差し支えない作品だと思う。星新一のショートショートをエクスパンドしたような感じの作品が多く、さらにレムやディックにつながるようなガジェットを多用する。書かれた当時ならばともかく、今の目で見ればアイディア的にはさほど目新しくはないのだが、この作家ならではのコミカルかつシニカルな視点で楽しい。レムの泰平ヨンシリーズやディックが好きな人はぜひ。
 こういう作品が時々出てくるから光文社古典新訳文庫は目が離せない。
.31 2008 イタリア文学 comment6 trackback2

comment

こんばんは。
SFと絡めての感想を拝見し、なるほどと思いました。
私は『周期律』からレーヴィ作品に入ったので、「アウシュビッツ」的世界観が反映されつつ、ライトな作品にしあがっているのかな、と思いました。

シンプソン氏シリーズの「退職扱い」は、なんとも苦い後味でした。・・・
2008.11.02 23:35 | URL | ふくろう男 #EaNH9XtA [edit]
レムも大戦で友人や知人をたくさん失っていますからね。
こういうアイディアはそうした極限状態の経験を持つ人のペシミスティックな観点から出るのでしょうか。
でもやはりレーヴィはイタリア人なので、アイディアが似ていてもなんとなく楽天的な感じがします。徹底的にペシミスティックでシニカルなレムとは方向性が違っていて、そこがまた面白いですね。

他の作品も機会があったら読んでみたいと思います。
2008.11.03 01:03 | URL | piaa #- [edit]
ん~レムですか?
私が読んだ直後に思った事は「ちょっと安っぽいアイデア重視のSFだなあ。
今頃になって翻訳されたことは遅きに逸したというか、意味があるのかなあ」でした。
レーヴィの事は多少知っていたので以外な感じがしたんです。
piaaさんのコメントを読んでちょっと不安になってきました。再読しようかな。

「ビチュニアの検閲制度」のタイポグラフィック(?)は趣味の良いアルフレッド・ベスターという感じ。
多分同時代人だろう二人にシンクロを感じて、ちょっと面白い。


2008.11.03 23:10 | URL | ojyamasimasu #- [edit]
確かにSFとしてはよくあるアイディアですが、レムや星新一とは違う方向に物語が展開するのが面白かったです。
私は逆にレーヴィという作家は全く知りませんでした。
「アウシュビッツ…」の著者として有名なようですが、この本で別な一面を見せたという感じなんでしょうか。
そう考えてみると表題作の「天使の蝶」などはナチスに対する怒りが仄見える気もしますね。
2008.11.04 00:58 | URL | piaa #- [edit]
この短編集、
古典新訳文庫の他のイタリア作品と同様に
とても面白かったですね。
本当に目が離せないシリーズだと思います。

NATCA社シリーズはこういう不思議発明品みたいな作品が
好きな自分としてはなかなか楽しめました。
しかも特にこのシリーズに特化した短編集ではないのに
「退職扱い」ではちゃんとシリーズに幕が下りるあたりも
面白かったです。
piaaさんも書かれていますが、
「退職扱い」はディックの「追憶売ります」を思い出しましたね。

読んでいて、全く古さを感じさせないので、
読み終えてから半世紀近く前の作品だと知って
ちょっとビックリしました。
2008.12.23 14:18 | URL | ANDRE #- [edit]
そうですね、光文社古典新訳文庫の関口英子氏翻訳によるイタリアマイナー作家短編集シリーズはどれも面白いですよね。
「猫」「犬」「蝶」と来たので次は何でしょうね。ランドルフィあたりが来そうな気がします。

>全く古さを感じさせないので、読み終えてから半世紀近く前の作品だと知ってちょっとビックリ

そうですよね。私も全く古さは感じませんでした。といっても私の場合レムやディックにも古さを感じないのですが。
2008.12.23 22:23 | URL | piaa #- [edit]

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