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角田光代 キッドナップ・ツアー


 日本の作品で何か面白いのないですか?と聞いたところ、vogelさんに角田光代の「八日目の蝉」はいかが、と勧めてもらったのだが、これがまだ発売からあまり間がないらしくて文庫は未発売。古本屋にも見当たらなかった。で、同じ作家のこの本が目に付いて、なんだか気になったので手にとってみた。

 ハルは小学5年生。夏休みの始まる日、2ヶ月前から家に帰らなくなった父親に誘拐される。
父と娘は方々を泊まり歩き、その間父は母に時々電話をかけては何事か交渉しているらしい。
父はだらしなくて、なさけなくて、お金もない。そんな父をクールに見つめながら、ハルの、波乱万丈(?)の夏休みが過ぎていく。

 終始ハルの視点で描かれるこの作品は、一見児童文学の体裁をとっている。実際に小学校高学年や中学生くらいの子供たちに読ませてもそれなりの感想が帰ってくるに違いない。
 でもこれはやはり大人が読むべき作品だと思う。
 この作品は徹底してハルの視点でのみ描かれているので、ハルが知ることの出来ないことは読者も知ることが出来ない仕掛けになっている。このため読者は、父が母に何を要求したか知ることが出来ない。そんなことには作者の興味はないのだ。ここで作者の描きたかったことはダメ男である父親をだんだん好きになってしまうハルの心の動きなのだ。
 駅で本当の誘拐犯と間違われたり、山のお寺で幽霊話を聞いたりとかのエピソードを詰め込んで読者を飽きさせず、だんだん読者も、しょうがないやつだなあ、と思いながらもこの「おとうさん」がなんとなく好きになってしまうのだ。

 解説で重松清氏が指摘しているように、ハルの、言葉にしなかった思いがたくさん描かれているのがこの作品のミソで、読者はひとつの出来事に対してハルが思ったことと、実際に発言・行動したことの両方を知ることができる。それに対して父については、ハルが目にする実際のアクションだけが描かれる。これはもちろん、普段私たちが誰かと行動を共にするときと全く同じだ。そういう当たり前のことが、たとえ一人称で書かれていても、大抵の小説では出来ていないことがいかに多いか、この作品を読むと思い知らされる。さらに、ここに描かれるハルの気持ちは子供だった事がある人なら誰でも理解できるものだ。子供の気持ちを、子供が実際に使いそうな平易な言葉だけを選んでここまで、しかもさらりと表現してしまうのは見事だ。何気なく見えて実は相当な筆力のある作家だと思われる。
 そして旅の終わりがやってきて、ハルが父と別れる時がやってくる。ぐずるハルを諭す父の言葉がなかなかいい。ダメ男でなければ言えない、人生の真実のような言葉だ。

 というわけでとても楽しく読んでとても面白かったのだが、意外にもAMAZONでの評価を見ると結構低い。
 父が母とどんな取引をしたのか明かされないのが不満な人が多い。確かに気にならないと言えば嘘だが、作品の性格上その謎解きは必要ではない。
 子供視点だけで書かれているのが物足りないとかいう意見もあったが、これを父や母の視点からも描いていたら途端に生臭くて読めたものではなくなる。子供の視点だけから描かれたからこそ、この物語は独特のファンタジーを感じさせるものになったのだ、と思う。

 それにしても、AMAZONでこの作品を低く評価している人が多いというのは、要するにこういうストレートなものが苦手な読者が多いということなのかな?「薬指の標本」を高く評価している人が多いところを考え合わせると、標準的な日本文学の読み手って存外ひねくれてるのかもしれない。
.11 2008 日本文学 comment2 trackback0

comment

piaa殿、お毒味係のvogelでございます。
角田光代の毒に当たってしまわれないかと心配いたしましたが、お気に召していただけてホッといたしました。

この本は気になりつつ、まだ読んでいませんでしたが、piaaさんのレビューを読んだら「これは読まねば」という気になりました。

この人は、普通の人が誰でも心の中に持っていそうな、人間のイヤ~な面を書くんですよ。 その書き方がやさしい味わいのときと、ゲーッとなりそうなほど苦いときの両極端。 そのくせインタビューでたまにみると、狸顔でものすごくゆっくり話す、ぽわんとした感じの人なんですよ。 どこにあんな毒を秘めているのか、とても気になる作家です。
2008.10.13 01:09 | URL | vogel #9JN9NMwM [edit]
これはvogelさんのおっしゃる「毒気」はあまり感じなったですね。
逆にダメ男の魅力が満載で、ダメ男の私としてはうれしい作品でした。

ちなみにこの本を読んだと言うと、妻に、そんなフツーなの読んだの?と驚かれました。
2008.10.13 23:19 | URL | piaa #- [edit]

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