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残雪 暗夜

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 河出新社の池澤夏樹監修・世界文学全集の最新刊は、現代中国の女性作家、残雪(can xue)の「暗夜」とベトナムの作家バオ・ニンの長編「戦争の悲しみ」の2作を収めたアジア編。現代アジアの作家の作品というのは、意外と触れることが少ないので刊行を楽しみにしていた。前半に収められた残雪の短編集「暗夜」を読み終わったので早速レヴューを。

 これは表題作ほか全7作からなる短編集だ。7作のうち「痕(ヘン)」と言う作品が70ページくらいと表題作「暗夜」が50ページくらい、残る5作は10ページ前後とかなり短い作品が並んでいる。
 どの作品も相当変わっている。そのシュールな作風がカフカを思わせるという意見も多いようだが、カフカとはまた違う。カフカの作品はそんなに読み込んだわけではないが、たとえば「変身」ではザムザが虫になると言う部分だけが不条理で、あとはそれを前提にしてリアルな物語が展開する。「審判」でも主人公が裁判にかけられるという前提自体が不条理で謎なだけで、あとは基本的にリアルに物語りは進む。カフカの場合、ディティールにはあまり意味不明なことはない。
 それに対して残雪の作品は、大筋からディティールまで、それこそ謎のオンパレードである。冒頭の短い「阿梅(アーメイ)、ある太陽の日の愁い」を読むと、語り手である阿梅というヒロインが母に勧められて老李という男性と結婚し、大狗という息子をもうけるが、老李は家から出て行ってしまう。ストーリーとしてはこんな感じなのだが、ディティールの描写が何から何までわからない事だらけだ。冒頭のシャベルですくってもすくっても家に上がってこようとするミミズの群れといった具体的な描写の意味から、老李と母との関係、主人公がなぜ老李と結婚したのかという基本的なことまで全く読者に説明されない。自分の結婚と言う大事よりも誰かに手紙を書くことのほうが重要な語り手。しかしその手紙を誰に書くのかがわからない。こんな風に語り手の心情も全く明らかにされない。

 この作品集中一番の分量を持つ「痕(ヘン)」と言う作品は、むしろを編んで生計を立てている「痕」という男がある日山の中で鍛冶屋と出会い、脅されるところから始まる。鍛冶屋に恐れを抱いて村人と疎遠になった痕のもとに、謎の買い付け人が現れ、痕のむしろを普段よりもはるかに良い値で買い取ってくれることになる。しかし、痕は買い付け人が買って行った自分のむしろが山中に打ち捨てられていることを知る。この買い付け人はいったい何なのか?痕を常に見張っているかのような鍛冶屋は何者なのか。作者はそういったディティールについての説明を全く語ろうとせず、だからこそ物語は民話的・神話的な様相を深めてゆく。

 どの作品も中国の山村が舞台で、われわれの目から見ると途方もない田舎の物語だ。だから日本で言う江戸時代か明治時代の物語みたいに錯覚してしまうが、よく読むと痕の家には電気が来ているし、これは(おそらく)現代の物語なのだ。現代にも中国にはこんな神話のような世界が成立しうる。
 神話的様相は最後の「暗夜」で最高潮に達する。少年敏菊と斉四爺は「猿山」に向けて出発するが、その道行きをシュールに描いたこの作品はあたかも地獄めぐりの様相を呈することになる。足を切り落とした少年、雌馬、死んだはずの大叔父の三永…様々な異常なイメージが語られるが、それらが何を意味するのか全く説明されないのはほかの作品同様だ。旅の目的地でありながら、結局到着することのない「猿山」が何なのかもわからない。

 本書の全7作を通じて、そのイメージの鮮烈さが印象的な極めて独特な作品集だ。
 で、読者はここから何を読み取ればいいのだろう。他者とのコミュニケーションの不可知性について、だろうか。それにしてもあまりにも暗く、深刻な世界が広がっている。作者の目はきわめてクールに世界を切り取っている。『世界とはこんなものかも知れないと思うとき、ショックを受ける』という池澤氏の言葉に頷くしかない。
 訳文にはやや生硬な感じを受けるが、元の言語(中国語)がそういう言語なので致し方なしと言うところか。
.16 2008 アジア・アフリカ文学 comment0 trackback0

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