ベレゾフスキー ベートーヴェン:ディアベリ変奏曲

2008-07-26-Sat-20:03

 ロシアのピアニスト、ボリス・ベレゾフスキーのリサイタルの様子が先日NHKハイヴィジョンで放送されていたのだが、ベートーヴェンの「ディアベリ変奏曲」を演奏するというので録画して観た。

 ベートーヴェンが晩年に作曲した、作品120という番号のついたこの変奏曲は演奏時間1時間弱という、彼のピアノ作品の中でも最大の作品である。アントニオ・ディアベリのかなり陳腐なワルツをテーマに33の変奏が繰り広げられる大作だ。

 巨大な変奏曲と言うと大バッハの「ゴールドベルグ変奏曲」が連想されるが、これが定旋律に基づいていてカノンやフーガを中心に展開するバロック時代らしい作品だったのに比べ、こちらはより自由でピアノという楽器の機能を最大限に生かしたものになっている。
 冒頭に演奏されるディアベリのワルツは本当に陳腐。ディアベリはこのテーマを元に「当時有名だった作曲家50人に1人1曲ずつ変奏を書いてもらい、長大な作品に仕上げようと企画した。その中にはカール・チェルニーやフランツ・シューベルト、まだ少年だったフランツ・リストもいた。」(括弧内はウィキペディアより引用)ベートーヴェンは一度断ったが、いつも世話になっているディアベリのために思い直してこれを作曲したらしい。頑固者で堅物のベートーヴェンにしてはえらく気前のいい話だが、まあそんなこんなで作曲されたこの曲が、32のピアノソナタと肩を並べる傑作になるのだから世の中わからない。

 で、肝心の曲だが、冒頭のディアベリの陳腐なワルツのテーマが終わると、とたんにベートーヴェンの独自の世界が展開する。一般的に古典派の「変奏曲」はストレートにテーマの旋律を使って変奏を行うので、変奏の主体がテーマのメロディではない定旋律を使って変奏を展開するため、変奏の間ほとんどテーマ(アリア)のメロディが聴こえてこない「ゴールドベルグ」よりもはるかに理解しやすい。通常この時代の、ハイドンやモーツァルトの変奏曲というものは変奏を重ねるごとにテーマからだんだん遠ざかっていくもので、という事は第1変奏などはテーマにちょっと毛が生えた程度のものである事が多い。ところがベートーヴェンはいきなり第1変奏からリズムもメロディも大胆に書き換えていく。最初の4〜5個の変奏が終わるころには、ディアベリのワルツは、その片鱗さえもうどこにも聴こえなくなる。後は晩年のベートーヴェンらしい穏やかでかつ深みのある美しさと、ダイナミックだが落ち着いた音楽がかわるがわるやってくる、後期のソナタや弦楽四重奏曲などと同じように全体では透明で落ち着いた印象を受ける傑作だ。

 後半に至ると、まったくディアベリの旋律とは無関係とも思える世界はどんどん深化していき、特に最後の方、長大な第31変奏の深々とした呼吸から第32変奏のフーガへ入っていくあたりなどはスリリングですらある。そして最後も、素直にテーマを出すのではなく、メヌエットに変貌した第33変奏が全曲を締めくくる。
 長すぎるうえ、テーマからあまりにもかけ離れてしまう曲のため、聴きづらいと言う人もいるようだ。そんな人は変奏曲と意識せず、巨大な組曲と思って聴くといいのかもしれない。ちなみにゴールドベルグ変奏曲が好きな人は大抵変奏曲という形式を意識せずに聴いていると思う。

 演奏については、他の演奏をほとんど知らないので、正直このベレゾフスキーの演奏がどうなのかはよくわからない。彼はもともと超絶技巧の持ち主として注目されたらしいが、この曲の他の演奏に比べかなりテンポが遅いようだ。ちなみにCDは出ていないらしい。

COMMENT



不思議な曲です・・・

2008-07-27-Sun-22:49
こんにちは。
この曲は本当に手ごわいというか、いまだにわけがわからない面もあるのですが、
ウェブにアップされている野平一郎さんの論文を読んで、
ちょびっとだけわかったかも、と思ったりする今日このごろです。

http://www.ri.kunitachi.ac.jp/lvb/rep/2004/nodaira04.pdf

2008-07-28-Mon-01:19
木曽のあばら家さん、こんばんわ。
ご紹介いただいた野平一郎さんの演奏論を参照しながら聴くと、理解しやすそうですね。ありがとうございます。

私はベートーヴェンの後期のピアノソナタや弦楽四重奏曲が好きなので、この曲も、確かにつかみ所のない作品ではありますが、とても気に入りました。今まで聴く機会がなかったのが残念なくらいです。

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