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マイクル・コーニイ ハローサマー、グッドバイ


 チュツオーラの「やし酒飲み」、アディーチェの「アメリカにいる、きみ」、リョサの「楽園への道」、ペックの「豚の死なない日」そして先日読んだモームの「月と六ペンス」…今年になってからだけでも、かなり傑作と言える作品を読んだと思う。
 だが、それらの傑作さえこの作品の前で霞んでしまった。英国のSF作家マイクル・コーニイの「ハローサマー、グッドバイ」はそんな強力な魅力を持つ驚くべき作品だ。

 マイクル・コーニイという作家は1980年ごろに刊行された幻のサンリオSF文庫に、この作品を含む4作品がマイクル・コニィという名前で紹介されたが、サンリオSF文庫の消滅とともに廃刊になっていた。
 私はサンリオSFが売られていた当時、全くこの作家の事は知らず、当然読んだ事もなかった。今回河出文庫で発売されたこの本を書店で手にとってみて、なんだかピピッときてそのまま買ってしまったのだ。
 いやふつうこんな事ないのだ。だって物価高騰の折、ガソリン代を節約するため、このクソ暑いのに車のエアコンを一切使わない様にしているくらいなのだ。本だってなるべく買わずに済まそうと思っているし、第一、このブログをいつもご覧の皆さんならお分かりのように、英米SFは私の守備範囲ではない。光文社古典新訳文庫の「幼年期の終わり」も買わないのに、普通だったら税抜き850円のこの本、絶対に買わない。
 でも買ってしまった。ピピッときたんだからしょうがないよね。

 で、結論から言ってしまえばピピっときたのは全くの正解だったわけだが、これはどんな物語かというと、どこかの地球とは全く無関係な惑星の上での物語。19世紀後半程度の文明を持つその星にはふたつの大国があり、その一方エルトの首都アリカに住む、地球人で言えば多分14~5歳くらいと思われる少年ドローヴは夏の休暇を過ごすため両親とともに港町パラークシへ。そこでドローヴは去年出会った少女ブラウンアイズと再会し、二人はお互いに惹かれあうようになる。ところがエルトと隣国アスタとの戦争がだんだん激しくなったことから、パラークシの町の人々とドロ-ヴの父ら政府側の溝が深まってゆく、と言った感じだ。冒頭の作者の言葉には「青春小説であり、戦争小説であり、SF小説である」とあるのだが、戦時下の青春を描いた小説としての比重が高く、独得の動植物がいる生物相や、季節によって海に起こる「グルーム」と言われる変化など、よく描きこまれてはいるものの「SF小説」としてのウエイトが小さい印象を受けながら物語は進んで行く。

 ドローヴとブラウンアイズのラブストーリーとしては、ブラウンアイズのライヴァルとして彼女の友達のリボンという少女を配したり…このリボンという少女の存在がいろんな局面でとても印象的だったりするのだが…市井の少女と支配階級の少年という身分の違いを障害にしたりとなかなか王道っぽい展開だ。描かれているのが異形の生物の跋扈する異世界でありながら、少年少女たちの夏の冒険は瑞々しくノスタルジックで、さわやかな印象を受ける。本当に青春小説らしい展開で物語がすすむかと思いきや、中盤でリボンが氷魔(という怪物のような生物)に襲われ、その間に彼女の弟が行方不明になってしまうあたりから物語はだんだん悲劇的な色合いを深めていく。
 そして最後の方で大規模な破局が訪れ、この破局こそがこの作品がSFである理由なのである事がわかるのだ。そしてドローヴとブラウンアイズは引き裂かれ、パラークシの町の人々は次々と倒れていく。絶望に飲み込まれそうになるドローヴだったが、やがて最後の最後に希望の光が…

 単純に天文学的な見地からいうと、この星系は太陽と、もうひとつの惑星ラックスの重力の影響をあまりにも強く受けすぎていて、不安定すぎる。生命が発生しても文明を築くところまで進化するとは思えない。だがそんなことはどうでもよい。この作品の持つ恋愛の要素、親子の相克の要素、戦時下での人々の不安と対立を描いた戦時小説の要素、そして異星の風物を見事に描きこんだSFの要素、すべてが渾然一体となってこの素晴らしい作品に凝縮しているのだ。
 SFだから当たり前なのかもしれないが、異星の風物、独得の動物や植物についてはあまり説明がない。読みすすむにつれなんとなく理解できるようにはなっているのだが、SFに慣れていない人はちょっと読みにくいかも知れない。そういう方はまず巻末の解説に目を通されてお読みになるといいだろう。ネタバレもなくそのあたりがうまくまとめてある。

 本当にこの作品は素晴らしい。いや、文学の傑作とは全く言えないし、SFと言う狭い範疇でも決して十指に入るような傑作とは言わない。SF的にも設定に無理があるし、登場人物、特に大人達の描き込みが足りず、ドローヴの両親などは薄っぺらな、ただのいやな大人としてしか描かれていない。
 理屈ではないのだ。繰り返しになるが、そんないくつかの欠点など、この作品全体の放つ魅力の前にはどうでもいいことだ。ドローヴがブラウンアイズに魅せられてしまった様に、私はすっかりこの作品に魅せられてしまった。私とした事が、英国人の書いたSFなんかに心を奪われてしまうなんて!!
 …しばらく他の本を読む気になれない。
 みなさんもぜひ手にとって読んでみて欲しい。

 コーニイの別の作品もぜひ刊行を期待したい。この作品と同じ世界が舞台の、「I REMEMBER PALLAHAXI」(「思い出のパラークシ」と言った所か)という続編もあるらしい。残念ながらドローヴやブラウンアイズは登場しないらしいが、ぜひ読みたい。河出書房さん、ぜひお願いします。
(7月11日23:00、多少加筆しました)
.11 2008 SF comment8 trackback0

comment

上に挙げた作品が霞んでしまうとは!
カバーはYAっぽいですね。
とてもSFとは思えません。
SFは脳の理解度が追いつかないので苦手なのですが、これは読みたい!

そういえば、サンリオSF文庫、続々復刊されてますよね。
これを機に手に取ってみようかな。
2008.07.11 21:56 | URL | ぐら #- [edit]
いやいや、勢いでこんな風に書いちゃいましたが、それらよりも優れていると言うつもりは全くありません。
というかこの作品は欠点だらけです。
まずSF的には、上にも書いているようにこの惑星は重力的に安定してないので生物の生息に適していません。登場人物たちの描きこみも弱く、ブラウンアイズがなぜドローヴをあれほどに熱愛するのかよくわかりません。
それでもこの作品には、何かこう、どうしても惹かれてしまう何かがあります。
その何かが私の心を捉えて離さないのです。困った作品です。

この本が売れたら続編が出せるかも知れないということなので、ぜひ買って、読んでみてください!
2008.07.11 23:29 | URL | piaa #- [edit]
Piaaさんの記事で読みたくなりました。
サンリオSF文庫にはほとんど縁がなく、作者もしりませんでした。
物理がまったくダメでしたので、物理的理論が展開されると、理解が
追いつきませんが、そうでもなさそうですよね。
機会を見て読んでみようと思っています。
なかなかこちらで紹介の本、気になっているものが多いのですが、
未読のものがまだまだほとんどです。

余談ですが、「チェブラーシカ」のDVDがレンタルショップにありました。(ロシア映画はほとんどないので、ないと思っていました)
わたしの探し方が悪かったようで、これから見ようと思っています。
2008.07.13 19:40 | URL | kmy #GaU3vP2. [edit]
これはあんまりSFということを考えずに読み進めてもいいのかもしれません。小難しい設定もありませんので気軽に手にとって見られてもよいかと思います。
ファンタジー小説など、架空の国が舞台のものって結構ありますし、そんな感じで読み進めてもOKではないかと。
ヒロインのブラウンアイズが、いかにも「男の子が好きになりそうな女の子」として描かれている気もするので、女性が読むとどう感じるのかもちょっと興味ありますね。

「チェブラーシカ」もうご覧になりましたか?
わたしの妻は最近、サルっぽいものやクマっぽいものを見るとなんでもチェブラーシカに見えてしまうそうです。
2008.07.13 22:59 | URL | piaa #- [edit]
ようやく読み終えました!

とにかく設定の構築の仕方が圧巻で、そこに、キャラクターが魅力的なジュブナイル的面白さが加わって面白い作品でしたね。

ラスト、一瞬「?」だったのですが、パラパラと要所要所を読み返して、なんともいえない余韻を感じられたのも良かったです。
2008.07.20 00:20 | URL | ANDRE #- [edit]
ANDREさん、こんばんわ!

読まれたんですね。レヴュー楽しみにしています。
私はこの記事を読み返すとちょっと気恥ずかしい気もしますが、
作品全体に様々な要素と魅力とそして罠が仕込んであるとても興味深い作品でもあると思います。その辺が全然語り足りない気もするのでそのうちもう一度取り上げようかとも思っています。
2008.07.20 01:28 | URL | piaa #- [edit]
こんにちは。
私も今回の復刊でこの作品を知ったのですが、
確かにSFとしては突っ込みどころ満載ながら、
独特の魅力を持った傑作ですね。
「未来少年コナン」「天空の城ラピュタ」風の映像が
頭の中をよぎりました。
最後の最後までどうなるのか見当もつかず、
唐突ともいえるあのラスト、忘れられない一作になりそうです。
拙HPでもとりあげました。
よろしければ御笑覧ください。
http://www.h2.dion.ne.jp/~kisohiro/hellosummer.htm
2008.07.20 20:11 | URL | 木曽のあばら屋 #GHYvW2h6 [edit]
木曽のあばら屋さん、はじめまして。コメントありがとうございます。
HP、簡単に拝見いたしました。なかなか楽しいページですね。ゴーゴリ「鼻」のレビューには爆笑でした。またゆっくり見させていただきたいと思います。

ちなみに私は残念ながらジブリアニメは好きではないので「未来少年コナン」「天空の城ラピュタ」などのような映像は頭をよぎりませんでしたね~
2008.07.20 22:14 | URL | piaa #- [edit]

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