FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
.-- -- スポンサー広告 comment(-) trackback(-)

サマセット・モーム 月と六ペンス


 サマセット・モームという作家の名前は知っていたが、全く読んだ事がなかった。
今回、光文社古典新訳文庫から新訳が出ていて、書店で手にとってはじめてこの作品がゴーギャンをモデルにしたものだと知って読む気になった。
同じくゴーギャンを題材にしたリョサの「楽園への道」を読んでいたから、だろうか。

 まあ簡単に言ってしまえば、これはすごい作品だ。すごい作品なのだが、もしこの作品が全く未発表だったとして、今、この原稿を出版社に持ち込んだら、おそらく高い確率でボツだろう。場合によっては徹底的に直しが入って出版されるかもしれないが、そうして出版された作品はここで読めるものとは比べ物にならないほどつまらないものになっているはずだ。
 出版社の編集者はこう言うだろう。
「この作品にはあなたの実際に見たものが少なすぎる。特に後半、画家がタヒチに移住してからはすべて伝聞だ。伝聞で小説を構築するのには無理がある。さらに画家がなぜ家庭や生活を放擲してまで芸術の世界に飛び込んでいったのか全く理解できない。もっと画家の真情に沿った作品にできないのか」と。
 そうなのだ。今編集者氏が指摘した事は、この作品の最大の欠点だ。読者は、ゴーギャンをモデルにした画家ストリックランドの心情を全く理解できない。この作品の語り手である作者が直接ストリックランドに関わるのもパリにいる間だけで、作品の後半は作者は伝聞だけでストリックランドのタヒチでの生活と死を描くことになり、そこにはなにか埋めがたい距離感を感じてしまうのは事実だ。

 しかし、もし編集者氏の言うとおりに書き直そうとしたら、芸術と言う狂気に侵されたストリックランドの心情を理解しなければならない。そんなことは不可能だし、もしストリックランドの一人称に近い形でこの物語が書かれてもウソ臭いだけだ。この作品は芸術と言う狂気に侵された者の行状を客観的に描くからこそ、独得の緊張感で読者をぐいぐい引っ張っていく。 
 …しかし、やはり編集者氏の言うとおり、このままで今、新刊小説として出版されてもきっと売れないだろう。現代という時代は「売れる」事が最優先にされ、「売れた」作品が「よい」作品なのだ。現代のシステムでは「名作」は生まれにくい。

 モデルにしたとはいえ、ゴーギャンとストリックランドには正直大して共通点はない。40歳くらいで家庭を捨てて芸術生活に入ったことと、晩年タヒチに渡りそこで一生を終えたことくらいだろうか。ここにはゴッホとの共同生活(と彼の死)はない。そのかわりストルーブという凡庸なオランダ人画家が登場し、ストリックランドはかれの妻ブランチを奪い、さらに彼女を死に追いやってしまう。だがストリックランドには何の心情の変化もおきない。芸術に魅入られた彼は、愛するとか、そういう感情を失ってしまっているのだ。そういう非人的なストリックランドに嫌悪感を覚えながら、なぜか目が離せない語り手と同じ気持ちになっている自分に気づいてしまう。彼のように「何もかも放擲して自分の好きなことをして暮らす」ような事が自分達にはできっこないと知っているからである。

 さて「楽園への道」との違いだが、「楽園…」が比較的リアルなゴーギャンの伝記に近いのに比べてこちらには強力に文学的なバイアスがかかっている。読み比べてみるのも一興かも。
.05 2008 英文学 comment(-) trackback(-)

プロフィール

piaa

  • Author:piaa
  • Livedoorへ移転しましたので、そちらでお願いします。
    http://blog.livedoor.jp/piaa0117/

    2019年1月末にてすべての記事へのコメントの入力ができないようにしました。ご了承ください。
    これに伴い、これまでに書き込まれたコメントも表示できなくなりました。どうしても過去のコメントをご覧になりたい方は上記livedoorのページの同じ記事にてご確認ください。

ブログナビ

P&M_Blog
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ --年--月
  ├ カテゴリー
  |  └ スポンサー広告
  └ スポンサーサイト
P&M_Blog
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ 2008年07月
  ├ カテゴリー
  |  └ 英文学
  └ サマセット・モーム 月と六ペンス

カレンダー

05 | 2019/06 | 07
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

最近のコメント

月別アーカイブ

カウンター

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。