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サマセット・モーム 月と六ペンス


 サマセット・モームという作家の名前は知っていたが、全く読んだ事がなかった。
今回、光文社古典新訳文庫から新訳が出ていて、書店で手にとってはじめてこの作品がゴーギャンをモデルにしたものだと知って読む気になった。
同じくゴーギャンを題材にしたリョサの「楽園への道」を読んでいたから、だろうか。

 まあ簡単に言ってしまえば、これはすごい作品だ。すごい作品なのだが、もしこの作品が全く未発表だったとして、今、この原稿を出版社に持ち込んだら、おそらく高い確率でボツだろう。場合によっては徹底的に直しが入って出版されるかもしれないが、そうして出版された作品はここで読めるものとは比べ物にならないほどつまらないものになっているはずだ。
 出版社の編集者はこう言うだろう。
「この作品にはあなたの実際に見たものが少なすぎる。特に後半、画家がタヒチに移住してからはすべて伝聞だ。伝聞で小説を構築するのには無理がある。さらに画家がなぜ家庭や生活を放擲してまで芸術の世界に飛び込んでいったのか全く理解できない。もっと画家の真情に沿った作品にできないのか」と。
 そうなのだ。今編集者氏が指摘した事は、この作品の最大の欠点だ。読者は、ゴーギャンをモデルにした画家ストリックランドの心情を全く理解できない。この作品の語り手である作者が直接ストリックランドに関わるのもパリにいる間だけで、作品の後半は作者は伝聞だけでストリックランドのタヒチでの生活と死を描くことになり、そこにはなにか埋めがたい距離感を感じてしまうのは事実だ。

 しかし、もし編集者氏の言うとおりに書き直そうとしたら、芸術と言う狂気に侵されたストリックランドの心情を理解しなければならない。そんなことは不可能だし、もしストリックランドの一人称に近い形でこの物語が書かれてもウソ臭いだけだ。この作品は芸術と言う狂気に侵された者の行状を客観的に描くからこそ、独得の緊張感で読者をぐいぐい引っ張っていく。 
 …しかし、やはり編集者氏の言うとおり、このままで今、新刊小説として出版されてもきっと売れないだろう。現代という時代は「売れる」事が最優先にされ、「売れた」作品が「よい」作品なのだ。現代のシステムでは「名作」は生まれにくい。

 モデルにしたとはいえ、ゴーギャンとストリックランドには正直大して共通点はない。40歳くらいで家庭を捨てて芸術生活に入ったことと、晩年タヒチに渡りそこで一生を終えたことくらいだろうか。ここにはゴッホとの共同生活(と彼の死)はない。そのかわりストルーブという凡庸なオランダ人画家が登場し、ストリックランドはかれの妻ブランチを奪い、さらに彼女を死に追いやってしまう。だがストリックランドには何の心情の変化もおきない。芸術に魅入られた彼は、愛するとか、そういう感情を失ってしまっているのだ。そういう非人的なストリックランドに嫌悪感を覚えながら、なぜか目が離せない語り手と同じ気持ちになっている自分に気づいてしまう。彼のように「何もかも放擲して自分の好きなことをして暮らす」ような事が自分達にはできっこないと知っているからである。

 さて「楽園への道」との違いだが、「楽園…」が比較的リアルなゴーギャンの伝記に近いのに比べてこちらには強力に文学的なバイアスがかかっている。読み比べてみるのも一興かも。
.05 2008 英文学 comment4 trackback0

comment

久しぶりに奇遇です!
私もちょうどこれを読んでいたところでした(常時3、4冊を並列読みする私;)。やっぱり面白そうですね。いまだに冒頭部分をさまよっているので、はやく読み終えなくては。
と言いつつ、ついついリョサの方を先に読みたくなってしまったり…。『楽園~』面白そうです。
2008.07.06 00:30 | URL | ntmym #- [edit]
いや~、これは全く不意打ちに傑作でした。
こういう事があるから本を読むのはやめられない。
これと「楽園への道」を平行して読むと言うのも面白いかも。
でも「楽園…」自体がふたつ別な小説を並行して読んでいるような作品ですからねえ
2008.07.06 19:59 | URL | piaa #- [edit]
piaaさんの感想を拝見して、新訳で読み直してみたくなりました。
サマセット・モームはいまではすっかり「過去の作家」扱いですが、昔(20数年前!?)、一時期とてもモームにハマったワタシは「優れたストーリーテラー」という印象があります。

学生時代に読んだ文庫本があったので奥付を見たら、以前の新潮文庫の中野好夫訳版の初版はワタシが生まれるより前でした。 いま、この本を読んだら、どのくらい古くさく感じるだろうか…。

リョサの「楽園への道」はさっさと買おうと思いつつ、買えていません。 「とっておきのお楽しみ」として、いつまでもとってあります。
2008.07.06 22:43 | URL | vogel #9JN9NMwM [edit]
旧訳は読んでいないので比較はできませんが、この新訳は非常に読みやすくてよかったですよ。
この「光文社古典新訳文庫」はどれもとても読みやすくて、さらに字も大きくてとてもいいです。これを読んだ後で見ると、新潮文庫の読みにくいこと。

「楽園…」とこれは同じゴーギャンをネタにしてあっても、雰囲気も内容も全く違う作品です。文学ってそんな所も面白いですよね。
2008.07.07 00:24 | URL | piaa #- [edit]

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