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開高健 渚から来るもの


 開高健は1964年、新聞記者として当時の南ベトナムへ赴く。その時の記録を小説としてまとめたものが、彼の最高傑作とされる「輝ける闇」である。
 実家にその「輝ける闇」があったよな、と思って先日実家に帰ったときに探したら見つからず、これを見つけたのでかわりに持ってきた。


 この「渚から来るもの」は「輝ける闇」に先立ち、雑誌「朝日ジャーナル」に連載したものをまとめたもので、「輝ける闇」のスケッチのようなものと言える。2段抜きで366ページという大作で、多くのエピソードが「輝ける闇」と共通している。作者自身は「輝ける闇」を発表後、本書を廃刊としてその後は全集にも収めていない。という事は結構レア物なのかもしれない。

 「輝ける闇」は20年位前に読んだのだが、ディティールはもう忘れてしまったので単純な比較はできない。分量が半分に刈り込まれた「輝ける闇」の方が文学的に優れているのは当然である。こちらはまた今度改めて読むことにして、その分「渚から…」には物量があって、その分読み進むのも難渋なのだが、当時の南ベトナムの空気は色濃く伝わるのではないだろうか。ただし本作品の舞台はアゴネシアという架空の国という設定になっている。なぜそうしなければならなったのかは不明。

 助手として雇ったチャンという現地の青年の人となりを描き出す部分がある。筆者はチャンが何を考えているのかなかなか掴めない。徴兵試験を受けるよう通知された彼はなんとか徴兵を忌避しようと指を切る。彼が徴兵を忌避するのは単純に戦いたくないのか、それとも実は彼が心の中で北に心酔しているからなのか、筆者にはわからない。敵も味方も入り乱れ、とにかく矛盾だらけの戦争に辟易する筆者。やがてチャンの妹素蛾(トーガ)といい仲になった筆者だったが、戦争の本質を知りたい一心である部隊に従軍する事になる。

 とにかくこれでもか、これでもかというようにこの戦争の異常さを描き出す。例えばつかまえた北軍ゲリラが作戦書を飲み込んでしまう。南軍の兵士はためらわずにこのゲリラの腹を裂いて作戦書を取り出す。非人道的だと言われて南軍将校はこう言う。もしそうしなければ作戦書は手に入らず、村をナパームで焼かなければならなくなる。そうして女子供を殺してしまうのは「人道的」なのか、と。
 「君は作戦で村へ行く。女と子供ばかりだ。奴らは100人ばかりで一時間ほどどこかに前に出かけた、と答える。子供が君に水をくれる。かわいい子供だ。オッケー・ハウ・ユー!って言うのさ。そこで君が子供にチューインガムをやり、村を出て行く。すると子供が先回りして地雷を仕掛けて待っているんだ。君は口笛を吹きながらそいつを踏む。オッケー・ハウ・ユー!…バンッ! …そこでナパームを落としてバーベキューだ」(本書166ページ)

 そして最後に筆者が従軍した部隊が巻き込まれる戦闘。この戦闘は酸鼻を極め、200人の部隊のうち17人だけが生き残ったと言われる。この地獄の中を、筆者は泣き喚きながらはいずり、助けを求める手を払いのけてなんとか生還してくる。筆者の豪放磊落な人柄が有名だっただけに、この戦闘シーンは驚きで、その恐怖が浮き彫りになる。生還した後、戦死者達、テロの犠牲者達の亡霊を見ながら、脱力したように眠りこけるラストに戦争のむなしさと恐怖が凝縮している。

 これがたかだか40年前に、すぐ近くの国で起こった事実なのであるということに愕然としてしまう。いや、今でもイラクで、アフガンで同じような事が続いているのだ。人間というものは愚かである。その愚かさはこの先も、いつまでも変わらないのだろうか。
.09 2008 日本文学 comment0 trackback0

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