FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
.-- -- スポンサー広告 comment(-) trackback(-)

ペール・ラーゲルクヴィスト バラバ


 ntmymさん激賞の作品なので手にとってみた。
 スウェーデンのノーベル賞作家ラーゲルクヴィストによるこの200ページほどの作品は、聖書にわずかに記載があるバラバという人物の、その後を描いた作品である。

 バラバという人物は4つの福音書のすべてに記載されている(聖書をお持ちの方は確認していただくといいだろう)人物である。ということは実在の人物だったと考えてもいいだろう。
 彼はキリスト(作品中のクリストース・イエースース)と同じ頃捕まった罪人で、その罪状は各福音書で殺人・強盗など違いがあるが、要するに悪人だったようだ。
反ローマの過激派だったという説もあるらしい。
 時のローマ人ユダヤ総督ピラトゥスは、当時恒例であった過越祭の恩赦をキリストに与えようとして、ユダヤ人たちにキリストとバラバのどちらを恩赦すべきかを問うのだが、ユダヤ人たちは口々に「バラバに恩赦を!」と叫ぶのだ。
 とはいっても、実は福音書は当時の支配者であったローマを刺激しないようにローマには優しく、ユダヤにはきつく書かれているので本当に2000年前にピラトゥスがキリストを助けようとしたのかはよくわからないわけだが。
…というのがこの作品がはじまるまでの物語である。

 この作品はキリストの磔刑と、それを見つめるバラバという情景からはじまる。バラバは自分がなぜ救われたのか、なぜキリストが死んでいくのか判らない。そしてキリストの死の瞬間の奇跡を目の当たりにする。
 放免され自由になったバラバはキリストの弟子と名乗る男(言うまでもないが、ガリラヤの湖で主に出会った男、すなわち使徒ペテロである)と出会い、キリストが、自分はあらゆる人の罪を背負って死ぬ、と言っていたことを知る。そう考えると、バラバこそがあらゆる罪を背負って死んだキリストによって最も直接的に救われた人物なのである、と言えるだろう。
 キリストが自分の命に替えて救ったバラバの、その後の人生はどうだったのか。2000年前の実在の人物バラバの人生などもはや知る由もない。もちろんフィクションのこの作品はバラバという、思いがけなくもキリストとかかわりを持ってしまった人物の人生を通じて初期キリスト教の拡がる様を描いた作品なのである。

 だが、それだけではない。ここに描かれたバラバという人物はどこまでも半端な人間で、キリストの教えに惹かれながらもそれを信仰しようとはしない。奇跡に触れながらも懐疑的で、手放しで信仰することができないのである。
 だが、その半端な考えのおかげで、キリスト教徒がローマに迫害され、兎唇女が殺害される時も、奴隷として一緒に辛苦をなめたサハクが刑死するときもバラバは永らえる。
 バラバはキリスト教徒迫害の傍観者である。最後の事件が起きるまでは…

 最後の事件とは、キリスト教徒による(とされる)西暦64年のローマ放火事件である。これは悪名高い皇帝ネロによる自作自演の放火だといわれているが、このときに多数のキリスト教徒が捕まった。本書の中ではバラバはこの事件で捕まり、自分はキリスト教徒だと供述したため、デマが流れて捕まっていたキリスト教徒たちと一緒に磔になることになる。
 獄中でペテロと再会するが、ペテロはバラバを許し、バラバが主の替りに恩赦された男だと知っていきり立つ他のキリスト教徒に向かってこう言うのだ。
「これは不幸な人間なのだ。そしてわれわれにはこの男を裁く権利はない。われわれ自身欠点だらけであるが、それでもなお主がわれわれを哀れみ給うたことは、それはわれわれの手柄ではないのだ。神をもっていないからといってその人間を裁く権利は、われわれにはない。」
 キリストは、ペテロにこの言葉を言わせるためにバラバを生かしておいたのだ。「主を知らないと夜明けまでに3回言った」欠点だらけの人間の代表であるペテロの言葉だからこそ、この言葉が読者の胸を打つ。

 そしてバラバの最後の言葉。
 彼は暗闇の中へ、まるでそれに話しかけるかのようにいった。
「お前さんに委せるよ、俺の魂を。」
巻末の解説にも詳しいが、これは色々と解釈できる。だがやはり最後の最後になってバラバがキリスト帰依することを宣言した、ととるのが順当だろう。…だが私にはそんなに大げさな意味ではなく、「あんたには負けた」程度の宣言にも思えるのだった。

 私は何の宗教も信じてはいない。そういう意味では無神論者である。だからバラバの心の揺れもどこか理解できる。なにかを信じたい気持ちはある。でも奇跡を見せられてさえ信じ切れないわだかまりもある。終始キリストの教えを信じ切れないバラバは、神を信じ切れない現代人を象徴しているのだ。

 それにしてもネットの古本屋さんから届いた本が恐ろしく古いのでビックリした。1965年発行の岩波現代叢書である。旧字体の漢字で恐ろしく読みにくかった。それでも惹きこまれてしまう傑作だったが。
.20 2007 その他欧州文学 comment6 trackback2

comment

ずいぶん古い本をお読みになったんですね~。はやく岩波も文庫を復刊させるべきかと…。読みにくさではどっこいどっこいですが、私は文庫版をデータ化して持ってますよ。大きな声では言えませんが、ラーゲルクヴィストのその他の作品(絶版)も有りマス。興味がおありでしたら、いつでもおっしゃってくださいね~☆

ところで、piaaさんのレビューを拝見して、また泣きそうになっちゃいましたよ; 私はサハクの場面で毎回号泣しています。状況は悲しいけど、風景はすごく美しいので。

『バラバ』は読めば読むほど面白いというか、何度読んでも興味が尽きません。心の不安を目の前に引き出されたような感じになります。「なぜ」「どうして」と執拗に問われている気がして、いつも落ち着きません。この人はどの作品でもそんな感じです。暗いんですねー。
でも、読まずにはいられないのが不思議です。
2007.08.21 07:30 | URL | ntmym #- [edit]
これは無神論者がキリストの教えに迷いながらも惹かれていく物語だとも言えますね。
作者は現代人にこそなにか心のよりどころが必要なのだと言いたいのかもしれません。
冒頭のキリストの刑死の場面もそうですが、サハクの刑死の場面は不条理で悲惨で、でも異常に美しいシーンですね。ここで読者は自分が圧倒的に殉教するサハクではなくて、逃げ出してしまうバラバなのだと思い知る事になって、不安を覚えてしまうのですね。そういう厳しさがこの小説にはあります。

宗教と言うのは非常に微妙な問題なので、
この作品を無心論者が読む場合と、キリスト教の信者が読む場合では全く違う印象になるのではないでしょうか。
イスラム教の人が読むとどう感じるのか、などと妄想してしまいました。
2007.08.21 11:05 | URL | piaa #- [edit]
ntmymさんから繋がったバラバの輪。
piaaさんのレビューを読んだらもう一度読みたくなりました。
聖書の知識があればもっと楽しめるんだろうなあ。
友達に貰ったのを読むことにします。
……もう少し涼しくなってから。
2007.08.21 23:31 | URL | 来訪者 #- [edit]
お名前がありませんが、イーゲルさんですね。
コメントありがとうございます。
>聖書の知識があれば…
同感です。私も新約聖書を読み直してみようと思ったのですが手元になくて。
それにしてもこんな名作をなぜ復刊しないんでしょうか。
出来れば新訳を出して欲しいなあ。
光文社古典新訳文庫あたりで出さないかなあ。
2007.08.21 23:54 | URL | piaa #- [edit]
キリスト教と一口に言っても、いろいろとありますので、piaaさまの仰るとおり、信ずるものによって読者の印象というのは変わるのでしょうね。
「バラバ」はたしかに宗教色が強いですが、それにとらわれることはないんじゃないかと思います。
宗教は表現するひとつの手段ではなかろうかと思うのですが、どうでしょう?
2007.08.22 10:13 | URL | くろにゃんこ #Rr/PoIDc [edit]
私は基本的に作者は、この作品の読者として「キリスト教を信じている人・キリスト教について知識のある人」を前提にしていたと思います。
でなければこの題材を選ばないと思います。
聖書でおなじみの人物を使って神を信じれない者の物語を書いたわけなのですから。
だからこの作品は宗教と切り離しては考えられないと私は思います。

たしかにキリスト教の信者でないわれわれは、あんまりそれに捉われる必要はないとは思いますが。
2007.08.22 22:26 | URL | piaa #- [edit]

post comment

  • URL
  • comment

  • password
  • secret
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackback

trackbackURL:http://piaa0117.blog6.fc2.com/tb.php/618-3e253c93
ウィキペディアで、キリストの磔刑というキーワードで検索をすると、芸術・作品の項目では「文学では、ノーベル文学賞作家、ラーゲルクヴィスト著の『バラバ』が有名である」という記述があります。この小説は、過越祭の赦免を受けて、民意の元にその罪を免れた男、バラバの
図書館から借りてきた激古のラーゲルクヴィスト『バラバ』。刊行されてから御年50年弱、相方が「バラバラ」と言ったのもむべなるかな――所々印字が消えていたり、破れていたりして悲しくなる。新しい版もなかっ
2007.08.21 23:22 イーゲルヒュッテ

プロフィール

piaa

  • Author:piaa
  • Livedoorへ移転しましたので、そちらでお願いします。
    http://blog.livedoor.jp/piaa0117/

    こちらのブログへのコメントはLivedoorに転載しますが、定期的にチェックしないので相当遅くなることもあります。

ブログナビ

P&M_Blog
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ --年--月
  ├ カテゴリー
  |  └ スポンサー広告
  └ スポンサーサイト
P&M_Blog
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ 2007年08月
  ├ カテゴリー
  |  └ その他欧州文学
  └ ペール・ラーゲルクヴィスト バラバ

カレンダー

09 | 2018/10 | 11
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

月別アーカイブ

カウンター

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。