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ゴーゴリ 鼻・外套・査察官


 浦雅春氏の訳による落語調のゴーゴリが評判になった、光文社古典新訳文庫のラインナップの中でももっとも注目度の高い一冊。やっと読んだ。
 ゴーゴリは19世紀前半に活躍したロシアの作家である。今回はじめて読んだ。

 結論から言うと、これは相当面白かった。ロシア文学というとなにやらすごく敷居が高そうな気がする方も多いと思うが、くだけた訳文もあって、これは非常に楽しくて分かりやすい。ぜひ皆さんに読んでもらいたい。

 まず「鼻」。これはある日床屋のイワンが朝食のパンを食べようとした所その中から鼻が出てくる。常連客の役人で八等官のコワリョフの鼻だと推測したイワンはその鼻を川から捨てる。一方コワリョフは鼻がなくなって途方にくれるが、自分の鼻が五等官の制服を着て馬車に乗っているのに出くわす。
 とまあスラップスティックな物語が展開する短編。このパターンの作品は今ならいくらでも見かけるが、19世紀前半にこの作品を書いたゴーゴリの才気には驚かされる。鼻が服を着て人間のように振舞うというのは、物語(小説を含めた)だけのギミックで、訳者が体現しているように日本の落語に通じるものを、強烈に持っていると思う。

 「外套」は小役人のアカーキー・アカーキエヴィッチが、一念発起して外套を新調する。思い切って外套を新調しようと考えて、それを実際に手にするまでが克明に描かれる。当時の小役人にとっては外套を新調するのは現代の日本の普通の会社員が新車を買うようなものだと考えるといい。新しい外套を手に入れたアカーキーの喜びはそのくらい大きなものだったのだ。その彼を不幸が襲う。強盗に遭って、作ったばかりの外套を盗まれてしまうのだ。アカーキーは「おえらがた」に泣きつくが、この「おえらがた」にすげなくされ、絶望して死んでしまう。そしてアカーキーは亡霊になって…という物語。
 これもあらすじだけ読んでも確かに落語っぽいのがわかってもらえると思う。

 最後に収められた「査察官」は従来「検察官」として知られていた五幕の戯曲だが、スラップスティックさでは前の2作とそう違わない。
 市長ら町の有力者たちは、国から査察官が派遣されてくると聞いて戦々恐々としている。そこに査察官らしき人物が宿屋に泊まっているという情報が。市長らはその人物フレスタコフをあの手この手でもてなす。実はフレスタコフはただの放蕩息子で賭けに負けて文無しだっただけなのだが、なにやら偉い人と間違われていることに気づいた彼は市長らに大ボラを吹きはじめ、市長の妻と娘には色目を使い出す。
 このフレスタコフというキャラクターがデタラメでいい。ギャンブル好きで大ボラ吹きで女たらし。日本で舞台化するならカールスモーキー石井がぴったり。ぜひやってほしい。最後に市長たちが真相を知る頃にはトンズラしているあたりもなかなか…

 それにしても三作そろって当時から官僚主義の横行していたロシア社会を強烈に批判した内容だ。でもってゴーゴリは全く社会を風刺したつもりはなかったというのだから面白い。もっとも「査察官」初演の時は政府側から作者を糾弾する声が上がってゴーゴリは海外に逃亡したそうだが。
 このゴーゴリの作品たちはロシア・ソビエトの作家たちの反骨精神のルーツと言ってもいいだろう。この批判の精神は時代が下ってブルガーコフやストルガツキーに引き継がれたのだ。
 ドストエフスキーの「我々は皆ゴーゴリの『外套』から生まれ出でたのだ」の言葉は有名だが、ゴーゴリが現代ロシア文学の原点と言われるのはその辺を踏まえてのことなのだろう。

 他の作品も俄然読みたくなった。 
.27 2007 東欧・ロシア文学 comment5 trackback2

comment

ゴーゴリは面白いです。本人に社会批判の意識がさらさら
無いのに、このような作品を書いてしまっているところがまた
おかしいですよね。
TBさせて頂きます。
2007.07.27 13:16 | URL | イーゲル #- [edit]
光文社の文庫でゴーゴリも読もう!と思っていたのです。が、図書館に行ってみたところ「入荷予定はない」と言われてしまい、結局岩波と群像社で読みました。「査察官」が気に入りです。妻も娘もどっちでもOKというフレスタコフ、すごいなと思いました。「外套」の主人公の名前は一生忘れないようなインパクトがありました。機会があれば光文社のほうも読みたいと思っています。
2007.07.27 18:52 | URL | kmy #GaU3vP2. [edit]
イーゲルさん、kmyさん、書き込みありがとうございます。
これは本当に面白かったです。
ゴーゴリ本人に社会批判の意識がなかったのに、
その批判の精神が一人歩きしてロシア文学の素地を作ったと言うのがすごいです。それが自体ゴーゴリの作品みたいです。
フレスタコフの調子のいい性格も、「鼻」の驚愕の展開も爆笑ものですが、それにしてもこの作品たちの現代的なことに驚きです。
1830年代に書かれた、ということは170年も前の作品なんですよね!!
とてもそんなに昔の作品とは思えません。

ちなみに岩波の今井訳「鼻」「外套」は青空文庫で読めるようです。
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person207.html#sakuhin_list_1
2007.07.27 23:26 | URL | piaa #- [edit]
こんにちは。
TBさせていただきます。

ゴーゴリでは他に、堀江新二訳の『結婚』という戯曲がおもしろかったです。
『鼻/外套/査察官』のあとがきで触れてありましたが、ゴーゴリ作品では登場人物の名前に意味があるんですよね。
こちらの翻訳は、そのおもしろさを伝えるために、大胆にもその名前を変えてしまったもので、ニヤリとすること請け合い、です。
2008.05.10 15:49 | URL | ぐら #- [edit]
ぐらさん、こんばんわ
どうもTB飛んでないようです。よければ再度飛ばしてみてください。
ゴーゴリ、意外と本、売ってないですよね。「死せる魂」すら見当たりません。
「結婚」、探してみます。
2008.05.11 01:16 | URL | piaa #- [edit]

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はじめてゴーゴリの「鼻」を読んだとき、「このおっさん、頭がおかしいんじゃないだろうか。」と思った。なんとも下品な表現ではあるが。 ...
2008.05.11 12:57 ぐらんぼん
鼻/外套/査察官posted with amazlet on 06.11.30ゴーゴリ 浦 雅春 光文社 売り上げランキング: 30646おすすめ度の平均: 古典の新たな息吹を感じるAmazon.co.jp で詳細を見る躊躇なくお薦めします。まあ面白くなかったとし
2007.07.27 13:18 イーゲルヒュッテ

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