スタニスワフ・レム 大失敗
2007-02-11-Sun-23:16

1987年に発表されたレム最後の長編小説。一昨年の夏に一度発売予定の情報が流れ、それからずいぶん待たされたあげくやっと先月末に発売されたいわくつきの作品でもある。
これは「宇宙飛行士ピルクス物語」の、ある意味続編であり、「ソラリス」を含むファーストコンタクトシリーズの完結版でもある。
以下ネタバレあり
第一章「バーナムの森」では、土星の衛星タイタンのバーナムの森と呼ばれる地域で起こった事故で遭難した人々を救出しようと宇宙飛行士パルヴィスがディグレイターと呼ばれる、モビルスーツを思わせる巨大人型メカで被災地域に向かう。遭難者のリストにはピルクスの名もあった。しかしパルヴィスもバーナムの森に飲まれてしまう。パルヴィスら遭難者達はガラス固化(冷凍睡眠みたいなものだ)の処置を半自動的に受けていたのだが、百数十年後に発見された時には蘇生可能な状態だったのは頭文字がPのふたり…すなわちパルヴィスかピルクス…のうちのどちらかだけだった。
そうして蘇生したパルヴィスまたはピルクスは、記憶が戻らずテムペという名前を与えられ、太陽系外で知的生命が存在するとされるクウィンタ星の探査隊に加わる。
ところがテムペらを乗せた「ヘルメス」号がやっと到着してみると、クウィンタ星は無数の人工衛星が軌道を飛んでいる星で、さまざまな状況証拠からすると惑星上に二つ以上の対立する陣営があって冷戦状態なのだと推測された。クウィンタ星はヘルメス号の接触の呼びかけに応じないばかりか、着陸船を攻撃してくる。
結局最後までテムペがパルヴィスなのかピルクスなのか明かされない。レムの興味はそんなことにはないのだ。それどころか、はじめの方のテムペの出自を示すエピソードは本筋とは全く関係ないと言っていい。
この作品でレムは「エデン」「ソラリス」「砂漠の惑星」「天の声」のファーストコンタクト四部作で超えなかった一線を越えてしまう。それはこれまでの四作では結局できなかった異文明とのコミュニケートが成功すると言う事だ。すくなくとも人類の呼びかけにクウィンタ人は答えるのである。ただし、言葉が通じたからコンタクトが成功するわけではない。クウィンタ人は長年続く冷戦のためか非常に懐疑的で、ヘルメス号に対し敵対的な行動を取るのだ。
ヘルメス号の指揮官スティアガードは敵対行動をとられるのなら相手を力で屈服させてでも接触を行うつもりである。ヘルメス号はクウィンタの衛星を破壊し、惑星に大被害を与えてしまう。さらにクウィンタに対して脅迫まがいの最後通牒を行うことになる。ここでのヘルメス号の行動は、「砂漠の惑星」の無敵号の行動とは質的に違う。どちらも結果的に異文明と大規模な戦闘を繰り広げる事になるとはいえ、無敵号は最終的には「黒雲」を放り出して撤退する事を決定しながらも、レギス第3惑星に取り残された乗組員を救助するためだけに「黒雲」との最終決戦に臨むのに比べ、ヘルメス号には撤退という選択肢がどの局面でも選択できたにも関わらす、人類の体面のためだけにクウィンタ星を叩き潰そうとするのだ。
レムはこの作品で、文明の愚かさの衝突を描いたのだ、と思う。これまでレムの描いてきた異文明は「理解できないもの」「理解を絶するもの」だった。クウィンタも「理解できないもの」の範疇に収まるとも言えるが、この文明はこれまでにレムの描いた「ソラリスの海」や「レギス第3惑星の黒雲」よりもはるかに人間に近い。「海」や「黒雲」がある意味超越的な存在だったのに比べ、クウィンタ人は(何を考えているのか作中で明らかにはされないとはいえ)ヒューマノイドでこそないようだが、われわれ人類と同じようなものとして描かれている。クウィンタ人をわれわれ人類の末路と見ることもできる。人間と同じように愚かしいのだ。愚者が賢者に出会ったときの反応と、愚者が愚者に出会ったときの反応は全く違う。前者は「ソラリス」で描かれ、この「大失敗」では後者が描かれたと言えるのではないだろうか。そして愚者と愚者の接触は最悪の結果を招く事になる。
とまあこんな感じの作品なのだが、当然レムの作品だからそんなにまともにストーリーが語られるわけではない。特に前半はブラックホールとの遭遇などのSF的なものから、聖職者のアラゴとの禅問答まで、さまざまな本筋と無関係なシーンが連発する。全く読みにくいことこの上なし。でもレムファンってこの彼一流の読みにくさがまた好きなのだからある意味度し難い。…って私だけかな?
レムの創作の流れで言うと「泰平ヨンの現場検証」が1982年、それから5年おいて1987年に「泰平ヨンの地球の平和」とこの「大失敗」が出ている。「現場検証」で東西陣営のカリカチュアを笑おうにも笑えないタッチで描いたレムは、冷戦崩壊寸前のこの時期に、対立の愚かさをクローズアップしようとしたのだろうか。「地球の平和」も軍事力についての物語らしく、ぜひこの作品とあわせて読みたいと思うのだが…
ぜひどこの出版社でもいいから出して欲しい。どんなに高くても買うから。
それとついでにどこの出版社でもいいから「レム全集」を出して欲しい。だめならハヤカワ文庫から出てたやつをすべて再発して欲しい。レムのファンとしての切実な願いである。
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面白かった!予想以上に。
レム最後の長編小説。87年発表ということで、50年代からのSF小説やメタミステリ小説、6

