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再読 雪国

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 先月お休みしてしまった再読シリーズだが、今月はなんとか再開。今月は川端康成の「雪国」を引っ張りだしてみた。前回記事はこちら

この記事を書くに当たり、何か参考になるような論文とかないかなと思ってネットでググってみると、そういうアカデミックなものはあまり見当たらず、読者の方の個人ブログなどの感想などしか見当たらないのだが、総じてこの作品の一般の読者の評価は低いようだ。
 この作品がいまひとつ気に入らないという意見の主な論拠としては、「島村という男性に共感できない」というものと「ラストが唐突すぎる」というものが多数を占めているようだ。それを踏まえてこの作品を読んでいくことにする。

 この作品は島村の一人称では書かれていないので、そういう意味では島村という男性はこの作品の「語り手」ではない。だが、この作品の地の文の語りは島村の目線から離れることはない。決して島村のいないところでの駒子や葉子の行動は描かれない。それでいて一人称でないぶん島村の心情もさほど細かく描くわけではない。この主観と客観の微妙なバランスが、この作品の独特な「冷たさ」を生んでいる一つの要因だと思う。それがこの作品に対する好みを分ける一番大きな部分ではないだろうか。逆に言えば川端は最初から読者が島村に感情移入することを避けているのではないかと思う。
 島村以外にほとんど男性の登場人物がいない点も注目しなければいけない。これまでにもいくつか川端の作品を読んできて思うのだが、この川端康成という人物は、女性が大好きだったが、人間は嫌いだったのではないかと思う。島村という人物の有り様にもそれがにじみ出ていると思う。

 駒子と葉子の対比という観点でもよく語られる作品だ。健康的な駒子と、気が触れそうな葉子、という図式だ。島村が葉子に愛情を感じているのでは、というような意見もあるが、私はそうは思わない。島村は単純に女好きなので美人の葉子にもちょっと興味あるというだけのことだ。
 駒子と葉子を繋ぐのはかつて駒子のいいなずけだったと噂される(本人は否定する)行男という男性の存在だ。冒頭葉子を伴って「雪国」に戻った肺病を病んでいる行男は、小説の表面に登場することなく小説の半ばで亡くなる。葉子はどうやらこの行男を献身的に介護していたらしいのだが、彼の死後精神が不安定になっているようだ。島村と葉子が会話するのは小説中ただの一度だけ。そこで葉子は「駒ちゃんは私が気違いになると言うんです」と言う。駒子と葉子の関係は、島村が知らぬ以上詳しく書かれることはない。そしてラストで、火事の中二階から放り出されて落ちてきた葉子を駒子が抱きかかえ、「この子、気がちがうわ。気がちがうわ。」と叫び、その叫びが夜に浮かぶ天の川に吸い込まれて行って終りとなる。このラストは、葉子の正気も駒子の叫びとともに天の川に吸い込まれていったと私は解釈する。

 このラストが唐突すぎるという意見は、本当に短絡的な意見だと思う。これ以上島村と駒子のなにを描けというのか。
 この後ふたりに訪れるのは単なる「別れ」である。島村はいつものように東京に帰って行き、そしてこの地を訪れなくなる。駒子は年季が明け芸者をやめてしまい、普通に結婚するだろうか。何年か後に島村がこの地を訪れたとして、もう駒子を見出すことはない。そこまでなにからなにまで小説で描いて欲しいのだろうか。火事のシーンはカタストロフと美の融合した極めて印象的な、ある意味で非常に美しい瞬間である。そんな瞬間で切り取った方が小説として、芸術作品として良いとなぜ思えないのだろうか「古都」などをみても、小説の終わらせ方についての川端の感覚は独特かつ非凡なものだと言えるだろう。

 この小説は島村と駒子、葉子と行男のふたつの結実し得ない愛を描いているわけだが、それをうまく重ねて引き出したほんとうに見事な作品であると改めて思った。描かれている世界が純日本風なのに内容・構成的にはフランスの小説みたいな印象もあり、ヨーロッパで高く評価されるのも納得できる。
.28 2015 日本文学 comment2 trackback(-)

comment

「雪国」ってこんなストーリーだったっけ??というくらい忘れてました、確かに一度は読んだはずなのに。 読んだのは大学生の頃だったかな。 駒子という芸者が薄情な男に捨てられる、そんな印象しか残っていません(汗)。

大人になって読んだら何か違った感想をもつのか、気になってきました。 今度読んでみようかな。

独特の「冷たさ」というpiaaさんのレビューを読んで、ああ、それで私は川端康成があんまり好きじゃないのかもと、ストンと腑に落ちました。




2015.12.18 22:36 | URL | vogel #9JN9NMwM [edit]
そうなんです、川端作品ってどれを読んでも冷たいんですよね。
雪国はそのなかでもエース級。「冷たさ」が芸術の高みに達した稀有な作品だともいえます。
記事にも書いていますが、川端は相当な人間嫌いだったのでしょう。
人間嫌いでなければこんな作品は書けないと思います。
2015.12.19 12:20 | URL | piaa #- [edit]

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