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再再読 供述によるとペレイラは…  


 さて8月の課題はタブッキの傑作「供述によるとペレイラは…」。実はこの作品はこのブログで2回取り上げている。以前に既に再読しているのだ。なので今回読んだのが3回目である。

 ブログを始めて10年間、これまで600冊くらいと、まあまあなかなかな数の本を読んできたのだが、その中で最も好きな小説を一冊選んでと言われたら、悩んだ末にこれを挙げるんじゃないかな、と思うくらい私はこの小説が好きだ。
 正直、この作品ってタブッキのファンには評価が低い。あまりタブッキらしい作品ではないからだ。タブッキというと「インド夜想曲」「レクイエム」のように、つかみ所のない曖昧模糊とした作風が売りで、そういう作品を愛する人々にはこの作品はストレート過ぎるのだろう。

 しかしこの作品でタブッキは、はっきりと思想的な立場を表明している。自由を脅かすものにNOとはっきり言っている。それが、彼一流の内省的な語り口で静かに語られる。
 今の日本は、独裁政権前夜に似ている。ドイツが国家社会主義になだれ込む(ナチスの台頭を許す)時代に似ている。排他的な考え方をする若者が増え、近隣外国の文化を卑下し、排斥しようとする。今回の安保法制にしても、国民が法案に疑問を抱いているのを無視して無理やりにでも通そうとする。これで民主主義と言えるのか。こんなことをしているとやがてこの小説に描かれているポルトガルのような、いや、もっとひどいことになるかもしれない。大学生とか若い人たちが反対のデモをしようとすると「就職活動に不利」といって脅すようなことさえ起っているが、これなど最悪の卑劣な言論封殺である。

 中年の新聞記者ペレイラはポルトガルのサラザール体制に息苦しさを感じていたものの、基本的にはノンポリの男で、はじめは独裁だろうとなんだろうと自分の生活が脅かされなければ別にいい、というスタンスだった。今日本の私と同じくらいの年齢の人たちも、特に子供がいない人たちは基本同じ考えなのではないだろうか。最悪国が戦争に巻き込まれても自分が兵隊に行くわけではないから。だから政治に無関心。
 そこにモンテイロ・ロッシという若者が現れる。彼は恋人のマルタとともに半体制の運動をしているようだ。自分に子供がいたらこんな歳だろうというようなロッシとマルタにいつのまにか肩入れしだしたペレイラ。この心のゆらぎが、ペレイラ自身の抱える健康への不安を絡めて見事に描かれていて非凡な小説だ。

 今回読んでいて気になったのは、作中ペレイラが眠って夢をみたという場面が数回出てくることだ。これらの夢の詳細は、ペレイラが話の本筋と関係ないとして供述しなかったということで語られないのだが、実はこれらの夢はペレイラの心の変遷を考える上でかなり重要なのではなかったかとも思う。ハードカヴァー版の67ページと95ページに出てくる夢は、どちらもグランジャの海辺で女性と一緒だった夢だ。後の夢のほうで、水から上がった若い日の彼にタオルを差し出す「蒼白い顔の少女」は後の彼の妻であろう。では前の夢で彼と一緒だった女性とは?

 とりとめなく書いてきたが、今回読んだのが三回目でありながら、ラストではこれまで以上に非常に感動してしまった。MINMINが米国人と結婚して、私自身異文化に触れることが多くなり、米国に比べ日本が人権意識や労働条件などの点などでどれだけ遅れているか思い知らされることが多い(もちろん日本の方がいい点もいくらでもあるけど)のだが、一番日本人がダメな点は考え方自体が基本ネガティブである、そこに尽きると思う。ネガティブに考えているとペレイラの置かれたような事態に陥った時に、体制に飲み込まれてしまうのではないだろうか。

 自由を脅かすものにNOとはっきり言う。そんな日本人であってほしい。これは現代日本人必読の一冊である。
.18 2015 イタリア文学 comment0 trackback(-)

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