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スタニスワフ・レム 短篇ベスト10


 国書刊行会から全6巻の予定で刊行されている「スタニスワフ・レム・コレクション」だが、4冊出たあとぱたりと刊行が止まっていた。この本も一度2010年に刊行予定が報じられたあと立ち消えとなり、もう出ないのではと半ば諦めていたら先月突然出た。
 「大失敗」が2007年に出て以来だから8年ぶりの刊行。最初の「ソラリス」(2004年刊行)からすれば10年以上経っての刊行だ。

 タイトル通り10作の短編が収められているのだが、これはレムの母国ポーランドでのファンによる投票を元に選ばれた作品を中心にレム自身と編集者の独断で入れたものを取り混ぜたものが原書である。その中から既発の「完全な真空」に収録の作品と分量的に短編とはいえない「未来学会議」を省いたというもの。すべて新訳というのもポイント高い。いずれも深見弾氏の名訳があるのだが、最近深見氏の翻訳は版権保持者の大野典宏氏による「改訳」によって価値を失いつつあるので新訳の意義は大きいと思う。
 収録作品は「航星日誌」から2作、「回想記」から2作、「ロボット物語」から3作、「宇宙創世記ロボットの旅」から1作。さらに「ピルクス」から1作。それに独立した短編「仮面」が収められている。企画時には「航星日誌」や「ピルクス」がほとんど入手困難だったのだが、最近では復刊されているものもあって希少価値という点でのポイントは下がった事は否めない。
 それでも現在全くと言っていいほど手に入らない「回想記」や「ロボット物語」の中の作品が読めるのはありがたい。
 ただひとつ気になったのは「航星日誌」(関口時正氏訳)では主人公泰平ヨンの一人称が「私」、「回想記」(柴田文乃氏訳)では「吾輩」になっている点だ。それと特に「航星日誌・第21回の旅」は前作「第20回の旅」を受ける形で始まるので独立して読むとあれっと思ってしまう。ここでは「泰平ヨン」を「イヨン・ティーヘ」としているのも違和感大。まあここで「泰平ヨンを送り返した」と書かれたらいっそう訳がわからないとは思うけど。

 もちろんこの作品集で注目なのは今回初めて読む短編「仮面」である。これは短編としてはかなり長い作品で、ほとんど中編小説と言っていい分量がある。
 中世の封建社会を思わせる世界を舞台に、美しい女性として突如意識を持った「私」は、その「意識」に違和感を持ちながらも舞踏会で知り合った男性アルロードスと愛し合うようになる。ところが自分の体の中に異常な要素を認めはじめた「私」はあるきっかけでまるで昆虫のような凶暴なマシンの姿に変態する。自分がアルロードスを殺害するために国王によって送られた刺客のマシンであることに気づいた「私」はアルロードスを追跡する。殺害という「使命」と愛という「意識」のせめぎあいに疲れた「私」は救いを求めて教会を訪れる。
 これはすごい。だって展開がラノベそのもの。上のストーリーだけ読ませられて日本のアニメのストーリーですと言われても全く納得だと思う。今となってはもはやこれがレムでなければ書けないような作品だとは思えない。とは言え内容は「認識」や「実在」に迫るシリアスなもので、特に前半部分の、「私」が確固たるアイデンティティを得ないまま手探りで進むような曖昧な一人称に徹したその描き方などはさすがにレムだとは言えるだろう。これが書かれたのは1974年。時代を考慮すると驚くほど独創的な作品であることに議論の余地はない。レムにしては珍しく、物語に宗教的な光を当てている所も見逃せない。あえて女性らしい「です・ます」調で書かれた翻訳もよい。

 ちなみにこれと「ピルクス」からのエピソード「テルミヌス」は投票での順位は低く、レムと編集部が独断で入れたものだそうだ。一般投票ではどうしても読みやすく軽く、印象に残りやすい作品が選ばれてしまうと思う。レムの独立した短編というとこれも入手困難な「素晴らしきレムの世界」(これもすごく意地悪なタイトルだけど)全2巻があるし、雑誌に掲載されただけで単行本になっていない「百三十七秒」とか、正直言って「航星日誌」や「ロボット物語」よりももっとそういう作品が読みたかったなあと思う。

 さて国書刊行会のレムコレクションもいよいよ残り一冊。「変身病棟・挑発」がラインナップされている。特に「変身病棟」はレムの非SF作品としてかなり重要なものだそうで期待大。でもいつ出るのだろうか。また7~8年待たされるのかな。
.30 2015 スタニスワフ・レム comment0 trackback(-)

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