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道満晴明 ヴォイニッチホテル 第3巻


 いや~、終わった。
この作品が、ではない。私にとってマンガというメディアが、終わった。

 現代社会を悪くしているのは資本主義である。資本主義というと聞こえがいいが、その本質は商業主義、儲け主義だ。ちょっと前まではなりふり構わず利潤を追求するのは恥ずかしいことだったが、最近ではとにかく儲かることだけを考える会社が増えた。そうして顧客の利便など露ほども考えないヤ◯ダ電機やイ◯ングループなどが見かけの安さだけで実績を伸ばし、財界や投資者までもがその方法が正しいと信じるようになった。
 その考え方は出版界にも及び、出版社は『儲かる本』しか出さなくなった。「古典」と呼ばれるような本はどんどん淘汰され、今では岩波書店や新潮社が細々と売っているだけだ。
 マンガの世界でもそうだ。どの本屋さんに行っても、何年たっても終わりそうもないあの海賊マンガが平積み。そういういつ終わるとも知れないお子様向けマンガに背を向けて大人向けのコミック売り場に行ってみるとこんどはクソみたいなグルメマンガとか…本当に面白いマンガって数えるほどしかない。

 しかし、そんな中にこの作品が登場する。これはもはや「面白いマンガ」などというレベルの作品ではない。マンガという表現方法の到達した唯一の高峰と言ってもいい。わずか3巻という分量で、これだけの登場人物(ざっと考えても30人を超える)がいて、その登場人物たち全員がしっかりキャラクターとストーリーを持っていて、しかもそれが9年間というかなり長期の連載期間を通じて過不足なく描きこまれている。もうそれだけで神業だと思うのだが、それに切れの良いギャグをまぶし、さらにスプラッターもホラーも、甘酸っぱい恋もなんでもかんでも盛りこんである。いやこれは本当にすごいマンガだ。作品として本当に完璧に近いものだ。

 なに?「エレナのストーリーとスナークのストーリーがほとんど重ならない」って?あんたシェイクスピア読んでないのか?リア王とエドガーの話はほとんど重ならないが、それを理由に「リア王」が傑作であることを疑う人などいない。
 この作品の唯一の瑕疵はスナークが妹のことを第1巻では「アリサ」と呼んでいたのに、第2巻以降は他のキャラクターと同じように「アリス」と読んでしまっていることくらいだ。スナークの殺人の理由が語られず、表面的に単純な色情狂に見えてしまうのもやや気になるが、最初の殺人の時に「これは父の分、これは母の分」というセリフがあるのでもともとはなにか復讐が理由だったと推測でき、それ以上描く必要はないという作者の判断なのだろう。

 多数のキャラが同時進行的に物語を紡いでいく方式は、今コミック界で常識化している「キャラクター主義」へのアンチテーゼでもある。「キャラクター主義」とは劇画作家小池一夫が提唱したもので、非常にざっくり言うとコミック作品は強烈なインパクトのあるキャラを中央に配置することによって物語がついてくる、というようなものだ。この作品にこの考え方は当てはまらない。いや、強烈なキャラが何人もいるのだから当てはまるのか?どっちにしても新しい方向性であることは間違いない。

 しかし、そんな「完璧な作品」がこの腐った儲け主義の時代に、しっかり出版されたこと、それこそが奇跡的であると言えるだろう。正直言ってこの作品、集英社や講談社では絶対にありえない。そんな会社は「儲かる」作品しか出版しないからだ。それは出版社や作家にとっては「良い作品」なのかもしれないが、決して作品として出来の良い物にはならない。逆にこの作品を完結させようと忍耐強く描いてきた作家と、それを支えた秋田書店の素晴らしい仕事に敬服する。
 この作品はぜひコミックの出版と関わっている出版社やクリエーターの人に読んでほしい。こんな作品がありうるということに勇気をもらう人と、絶望する人がいるだろう。あとひょっとしたらなにも思わない人も。前者の人だけが今後もコミックの仕事をする資格がある。

 とはいえ、この作家自身これほどの作品は書けないだろうとも思う。
 どうせこれよりも面白い作品に出会うことはないだろうから、もうマンガは読まなくてもいいかな、と本気で思っている。
.28 2015 コミック comment4 trackback(-)

comment

こちらで紹介されていた「ニッケルオデオン」を
読んで以来、道満晴明は気になる作家の一人と
なってます。

下品系の下ネタが多すぎで
手許に置いておきたくないということもあり
BookOffで立ち読みにとどめていたりします。

作品としては、あまり絶賛したくはありません。
でも、漫画を読むのが下手っぴいな自分が
道満晴明作品であるだけで、
目に付けば必ず読んでしまうということは
かなり気に入っているからのかもしれません。

秋田書店といえば'90年代の傑作、
鈴木志保の「船を建てる」を復刊していたりして
地味に意欲的なラインナップをリリースしている
印象を受けます。

願わくばこういった作品群を受容する十代が
少しでも増えてほしいですね。




2015.05.29 23:59 | URL | amleth machina #SY/LY76s [edit]
あれれ、エログロはお苦手ですか?
まあ私も特に好きなわけではないですけどね。
この作家の魅力の一つはグロから小ネタまでの振幅の広さだと思います。
この人の作品は、相当グロいこともサラッと血生臭くならずに描いてしまうところもすごいと思います。
2015.05.31 01:41 | URL | piaa #- [edit]
>piaaさん

もし、自分がエログロを
苦手ととられたようでしたら
訂正させてください。

道満晴明作品の表現であれば
もちろん全然許容範囲です。
ただ手許に残しておきたいかというと
つい余計な判断が入ってしまうということです。

ちなみに、手許におくには
「ニッケルオデオン」はOK、
「ぱら☆いぞ」がNG。
でもって「ヴォイニッチホテル」と
「性本能と水爆戦」が悩ましいところなのです。

そもそも立ち読みして平気なのだから
買えよ・・・という気もしますね。

piaaさんも言われるように
道満晴明作品のエログロは
記号的な描線が無機的とも言える感触を
かもし出しており生臭さがなかったりします。
これはこそっと毒を忍ばせてくるという意味で
すごい凶器なんじゃないかと思うのです。

2015.05.31 23:55 | URL | amleth machina #SY/LY76s [edit]
「ぱら☆いぞ」と「性本能と水爆戦」はいわゆる「エロマンガ」ですからねえ。
多分この人の描くグロとおんなじで全然エロくないんでしょうけど。
「ヴォイニッチホテル」は…これはマンガを読む人にとっても描く人にとっても踏み絵みたいな作品です。だから持っておくべきです。ほかに捨てるべき作品がいくらでもあると思いますよ。
2015.06.02 00:27 | URL | piaa #- [edit]

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