スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
.-- -- スポンサー広告 comment(-) trackback(-)

福永武彦 「死の島」その2

Isola_dei_Morti_IV_(Bocklin).jpg
 前回に引き続き「死の島」について。この作品では作中で過去の芸術作品について語られることが多い。主人公たちの芸術談義のネタとして様々な作品が登場してくるのだ。シベリウスの音楽、ベックリンやムンクの絵画、玉堂の南画、岡倉天心の「茶の本」など多岐にわたる。

 ドイツの画家ベックリンについては相馬が素子を知ることになった「島」という作品がベックリンのそのものずばり「死の島」という作品に似ているということから語られる。記事冒頭に掲げた絵画がベックリンの「死の島」である。ただしベックリンはこのタイトル・モチーフで少なくとも5枚の作品を描いているのだそうだ。ただし、作中で素子はベックリンの画集を見て「この画家は死が自分の外にあったと思っていた」と断言し、そういう楽天主義は自分の作品とは程遠いといった趣旨の発言をしている。素子の「島」はもちろん実在する作品ではないが、もっと暗く、救いのないイメージの作品であると考えていいだろう。
 相馬は素子の作品に近いイメージの画家としてムンクを挙げている。そういえば私が初めてこの作品に触れたのは新潮文庫版だったが、そのカヴァーにムンクの絵画が使われていた。

 中でも大きくページを割かれて作品について語られるのがフィンランドの作曲家シベリウスだ。主人公である相馬が愛してやまない作曲家であるという設定で、素子や綾子を相手に蘊蓄を垂れるというシーンがある。正直この作品の時代設定である昭和29年には一般に人気があった作曲家だったとは考えにくいのだが、相馬のシベリウスへの偏愛ぶりはなかなかのもので、彼自身、自作小説の素子を主人公にした部分に「トゥオネラの白鳥」という表題をつけているが、これはもちろんシベリウスの代表作のひとつである交響詩の曲名でもある。この曲のイメージに素子の印象を投影したということだろうか。ちなみに綾子も『「トゥオネラの白鳥」を聞くと素子さんを思い出す』というような発言をしている。

 「トゥオネラの白鳥」は「レミンカイネン組曲」もしくは「四つの伝説曲」と呼ばれる連作交響詩の第2曲で、幽玄な趣の静かな曲で、シベリウスの作品の中では早くから親しまれた作品であるが、作中で相馬も語っているが第4曲「レミンカイネンの帰郷」という曲がこの作品を読む上での鍵の一つになっている。
 演奏時間7分ほどのこの作品は、聴いてみると結構騒々しくて、お世辞にも傑作とは言えないが、相馬が語るようにまずばらばらな動機がいくつか提示され、曲が進むといつの間にかそれが統一されていく。この曲の構造を小説に取り入れようと構想したのが相馬の小説なのだが、もちろんこの「死の島」という作品全体がこの構造をさらに深化した構成を持っているのだ。

 私は前回の記事の冒頭で「死の島」という作品が、「多層的な内容を持っている」と述べたが、それは5つの異なる部分が順不同に登場する複雑な構成のことだけを指しているわけではない。相馬が上に述べたような芸術論を語ったり、劇作家加藤道夫の死(昭和28年12月22日)から芸術家の自殺について語る部分があるという点でディレッタント小説(そんなジャンルがあるかどうかは知らないが)でもあり、相馬が飛び乗る急行「きりしま」を描いて鉄道小説でもある。もちろん被爆の惨状と後遺症を伝える原爆小説でもあるわけで、そういう多義的な内容を駆使して作者が描いたのは、やはりこの作家の永遠のテーマである「愛の不可能性」について、なのだ。

 以下次回。
.15 2015 日本文学 comment0 trackback(-)

comment

post comment

  • URL
  • comment

  • password
  • secret
  • 管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

piaa

  • Author:piaa
  • Livedoorへ移転しましたので、そちらでお願いします。

    こちらのブログへのコメントには返信できません。

ブログナビ

P&M_Blog
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ --年--月
  ├ カテゴリー
  |  └ スポンサー広告
  └ スポンサーサイト
P&M_Blog
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ 2015年01月
  ├ カテゴリー
  |  └ 日本文学
  └ 福永武彦 「死の島」その2

カレンダー

03 | 2017/03 | 04
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

月別アーカイブ

カウンター

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。