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福永武彦 「死の島」その1

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 福永武彦の「死の島」はこの作家の最大の長編で、私の持っている河出書房から出たソフトカヴァー版で上下巻900ページほどの大作である。非常に多層的な内容と複雑な構成を持った独特の作品で、20世紀日本文学の最高峰という評価さえ耳にするほどの傑作である。
 私がはじめてこの作品を読んだのは高校時代だったが、大変な衝撃を受けた。以後この作品が私に与えた影響は計り知れない。
 今回はこの作品について再読しながら詳しく読んでいこうと思う。今日はその第一回。

 この作品の概要については、以前書いたこの作品のレヴュー記事を参照ください。

 まずこの作品を語る上で絶対に避けて通れないのはその独特の構成だ。時間や空間、それに視点も違ういくつもの部分がランダムに置かれているのだが、大きく分けると
⑴相馬鼎の、昭和29年1月23日朝からまる一日の行動を描いた部分。「朝」「昼」というふうな副題がついている。
⑵相馬鼎の、昭和29年1月23日へ至る300日間の素子、綾子との交流を描いた部分。「300日前(春)」といった副題がついている。
⑶萌木素子の、昭和29年1月23日未明に服毒自殺を図るまでの数日間の心情を描いた部分。「内部」という副題がついている。この部分では素子のその時の心情とは別に、素子の広島での被爆時の体験がカタカナ書きされた文章で挿入されている。
⑷「或る男」の、昭和29年1月23日の行動を描く部分。「或る男の午前」といった副題がついている。
⑸相馬鼎が、素子、綾子との交流から創作した、ふたりの過去を推定したような内容を持つ小説。「カロンの艀」「トゥオネラの白鳥」「恋人たちの冬」の三つの部分がある。

 この小説を語る時に、よく「時間が飛び飛びになってる」と指摘されるが、実は完全に時間が飛び飛びになっているのは⑵の部分と⑶の中のカタカナ書きされた被爆体験の部分だけである。⑵の部分は完全に章として独立しているし、⑶も被爆体験の部分はカタカナ書きなので容易に区別でき、例えばプルーストのようにシームレスに回想が入り込む作品よりはるかに読みやすいとは言えるだろう。
 ⑵の部分は⑴の部分での相馬の意識と大体連動していて、その時の相馬の心情から連想される回想の体をとっているので読んでいて違和感も少ない。

 ⑸の部分は萌木素子をモデルにした「M子」の過去を描く「トゥオネラの白鳥」、相見綾子をモデルにした「A子」の過去を描いた「恋人たちの冬」、そしてふたりの共同生活を描いた「カロンの艀」の三つの部分が、これまた順不同に置かれているが、この部分はあくまで相馬鼎の創作にすぎず、M子の参加する同人「土星人」や、A子が「K」という男性と出会う経緯などは全く素子や綾子の「現実」の過去とは関係がない。よく読むと特に「M子」はかなり饒舌で、⑵や⑶の部分に登場する素子とは随分キャラクターが違うことがわかる。また、「恋人たちの冬」に出てくるA子は、「現実」の綾子に比べるとずっと類型的に思えるがどうだろう。
 問題なのはその綾子のほうで、この作品には綾子視点の部分が全くなく、彼女の心情が読者に直接届くことはない。

 ⑷の部分の語り手「或る男」は「二日前」の章で相馬鼎が素子の勤めるバー「レダ」で出会った男で、綾子と一緒に昔駆け落ちした元恋人である。取っ替え引っ替え女性を替えてヒモ生活をしている自堕落なこの男の独白で、綾子の過去がうっすらと描かれるが、それもはっきりと綾子の心情に迫るわけではない。
 ⑸の部分は極論すれば作者が読者を混乱させるために用意したフェイクであるとさえ言える。ここで描かれるM子とA子は相馬の目を通して単純化・戯画化された素子と綾子にすぎない。この部分で我々が理解できるのは、相馬がどれだけ素子と綾子のことが理解できていなかったか、というその一点だけである。漫然と読むと読者も相馬同様素子とM子、綾子とA子を同一視して混乱するので気をつけなくてはならない。

 重要なのは、この作品の主要な登場人物4人のなかで、綾子だけが読者に直接心情を語ることがないという事だ。そのため綾子の行動にはよくわからない事が多い。なぜ彼女が素子とともに服毒自殺を図るまでに至るのかはっきりとは説明されない。読者によっては綾子が自殺を図るまで思いつめる理由が貧弱と感じる場合もあるだろう。だが綾子の心情が、ラスト近くの『内部L』まで語られない以上、少なくともそれまでは彼女が自殺を選ぶ理由が本当に貧弱なのかどうかすら読者には判断のしようがないのである。
 相馬が自分の印象から創作した「恋人たちの冬」のA子が語る心情を、語られない綾子の心情に重ねるとこの作品全体を大きく見誤ってしまうのではないかと思う。

以下は次回。
.11 2015 日本文学 comment0 trackback(-)

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