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ジュリアン・グラック アルゴールの城にて


 先日コメントでreclamさんに紹介していただいた作品を書店で見かけたので購入してみた。
 この作家のことは全く知らなかったが20世紀フランスの作家で、シュールレアリズム的な幻想的な作風の作家とされているようだ。この「アルゴールの城」は1938年に出版されたこの作家のデビュー作である。

 この作品、とても変わっている。いや物語自体はいたって普通な物語なのだ。アルゴールの城に住むことになった主人公アルベールのもとに、友人エルミニアンがハイデという女性を伴って訪ねてきて三人の共同生活が始まるが、アルベールとハイデがお互いに惹かれ始めると三人の間に微妙な空気が流れ始める。そういう単純な三角関係の物語をフランス・シュルレアリズム文学らしい象徴的な言い回しをこれでもかと盛り込んで(言い換えれば『回りくどく』)書いた作品なのだが、特筆すべきはその文体である。

 この小説には全編を通じて全く「セリフ」がない。全て地の文で書かれている。また視点がほとんどアルベールに固定されていてエルミニアンやハイデの心象は全く描かれない(最後の数ページだけはエルミニアンに視点が移動する)のに、アルベールの一人称ではなく、第三者の視点での三人称で書かれている。
 書かれている内容もかなり支離滅裂で、「森」の章の最後にアルベールがハイデの死体(しかも他殺体)を見つけるシーンがあるが、その後の章にも普通にハイデは登場してくる。この描写の数ページ前に「徐々にアルベールは深い夢想に沈んでいった」という記述があるので、このハイデの死の描写も彼の夢想の中での事とも解釈できるが、そこは極めて曖昧である。この小説に書かれたことすべてがアルベールの幻想と取ることもできるが、作品中にそういうことを示唆する記述は一切ない。
 小説のラストも、城を去ったエルミニアンが間違いなくアルベールであろう何者かに襲われて(おそらく)死ぬところが描かれるが、なぜアルベールがそうした行動に出たのかは全く不明なままである。作者がアルベールの一人称を避けたのはそういうことを説明する事を避けたのだろう。

 というわけでよくわからない小説だ。フランスのシュルレアリズム小説ってこれまでにもいくつか読んだがその中でもよくわからなさナンバーワンかも。普通シュルレアリズム小説って題材が異常で記述は普通なのだが、これは逆に題材が平凡なのに記述が異常なので読みにくいことこの上なし。文学的な実験としては面白いが作品そのものとしては面白いとは言えない。それでいてなんとも言えない読後感の残る不思議な作品だった。
.22 2014 フランス文学 comment6 trackback(-)

comment

わざわざ読んで記事にまでしてくださり、ありがとうございました。

うーむ、piaaさんの好みには合いませんでしたか。しかし、仕方ないとも思いました。私も初めて読んだ時は曖昧な内容と独特な文章に苦労して、なかなか良さが分かりませんでしたから。
それでも、私はグラックの他の著作を読んで文章に慣れてくると、この文体がやみつきになりました。そして、アルゴールの城に戻ってくると、作品から感じるイメージがいつまでも消えないで残りました。今では、この作品の曖昧な内容は独特な文体と合わさって必要であるとも、私は思っています。

だから、この作品は合う人には魅力的なオーラを纏った小説になると思います(実際、倉橋由美子という作家が偏愛を語っています)。だから、人を選ぶ作品だと思いますが、この小説を好む人は必ずいると思うので薦める事にした訳です。
また、グラックの他の著作「シルトの岸辺」の方が読みやすく、分かりやすくテーマを描いていると思います(もちろん、グラックの文体も健在ですが)。

最近私は思いますが、小説は「何を(描く内容を)」、「どのように(どの文体で)」表現するかで質が決まります。おそらく、アルゴールの城は「どのように」を推し進めて出来上がった作品です。だから文体に慣れないと作品の良さがなかなか理解できないと思います。
ちなみに、この内容と文体の両方を極めた作品として私が読んだ中では、ガルシア=マルケス「族長の秋」や、マルケスに影響を与えたであろうフォークナー「アブサロム、アブサロム!」があると私は思います。

...長文になりましたのでこれくらいにします。(少し早いけど)来年もブログの更新、無理しない程度に頑張ってくださいね。
2014.12.22 16:18 | URL | reclam #etwkwH06 [edit]
reclamさん、早速のコメントありがとうございます。

『小説の質は「何を」、「どのように」表現するかで決まる』全くその通りです。
「アルゴールの城」は「どのように」を推し進めて出来上がった作品というのも全く同意見です。しかもそれがかなり徹底している。フランスのシュルレアリズム小説ってかなりヘンな作品が多いですが、その中でも異彩を放つものではないでしょうか。

確かにいきなりこれ読んで「この小説好きだ」という人はまずいないでしょうね。「シルトの岸辺」の方が読みやすいとは聞いてますが、そのうち読んでみたいと思います。

ところで、私来年は本読むのやめようかなと真剣に考えています。あ、いや全然読まないのではなくて、このブログも10年になりますし、これまでに読んできた私の好きな作品を再読する年にしようかと。
そしてそれを、文学作品だけにとどまらずほかの作品とのクロスレヴューで語るような事…例えばカフカの「変身」とケロロ軍曹の共通点とか、「戦争の悲しみ」と「ノルウェイの森」のロスジェネ比較とか…を今ちょっと考えています。
まあ構想してるだけですけど(笑)
2014.12.22 19:42 | URL | piaa #- [edit]
返信、ありがとうございます。

来年は再読の年ですか、それは良いですね。おそらく、以前とは違った発見がある事でしょう。
私も好きな本を再読して自分の読書観がどの様に変化したか見極めたいものです。しかし、積み本が溜まっていくばかりでそうはいかず...
ちなみに私は来年の目標として、長編をできるだけ多く読みたいと思っています。最近は長編を読む気力がなかなかなくなってきているので。

これも最近思う事ですが、年をとるごとに小説を読もうとする意欲や大長編を読む気力がなくなってきます。だから、私もそろそろ小説を読む必要はないと思う事がたびたびあります。
だからこそ、読む本は選んでいかないといけないし、再読して自分の好みの傾向(どんな本を自分は求めているのか)を把握する事が重要になってくると思います。本を読むのが辛い時期はあっても、本に対する信頼は失わないようにしたいものです。

完全に私事になりました、すみません。来年も素敵な興味深い記事、楽しみにしています。
2014.12.23 19:33 | URL | reclam #etwkwH06 [edit]
まあ再読も計画的にやらないといけませんね。
毎月一作程度読めたらいいのですが、私も最近読む気力がなくなってきてるのでどうなることやら。
あまり期待せずに待っていてください。
2014.12.24 09:04 | URL | piaa #- [edit]
「アルゴールの城」っていつの間にやら岩波文庫に収録されていたんですね。
自分は白水Uブックスの方で読んでいたのですが、岩波文庫っぽくないような作品だと思ってました。

全体的に曖昧な印象な・・・。でも緊密な文体がものすごく好きな作品です。第一印象から好きな作品だったので、piaaさんの感想からすると自分の感想は一般的な読者からすると当てにならないのかもしれません。

それにしても岩波文庫って、いつの間にやらこんな胡乱な作品も収録するようになっていたんですね。ちょっとびっくりしています。そのうちマルセル・ベアリュの「水蜘蛛」やレオノール・フィニの「夢先案内猫」、ルイ・アラゴンの「イレーヌのコン」あたりも収録するようになるんでしょうか?

ちょっと、わくわくしてます。
2014.12.31 00:00 | URL | Amleth Machina #SY/LY76s [edit]
曖昧かつ緊密な文章…要するに「詩」に近いものがあるってことでしょうかねえ。
私は「詩」というものがダメなので。
私の感想のほうこそアテにならないかも。

岩波ってけっこう時流に乗りますからね。他の出版者が出して話題になると追従することが結構多いですよね。ブッツアーティなんかも光文社が出さなかったら絶対手を出さなかったような気がしますし。

白水社は最近出した本もマイリンクの「ゴーレム」とか結構ぶっ飛んでますよね。ただ値段が装丁の割には高い。ちょっと興味はあるけど、なかなか手が出ないです。
2014.12.31 00:53 | URL | piaa #- [edit]

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