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ローラン・ビネ HHhH プラハ、1942年


 本屋大賞などで話題になったフランス人作家の作品。

 1942年、プラハで起きたナチスの高官ラインハルト・ハイドリヒ暗殺事件。この事件について小説を書く事にした「僕」は様々な文献や写真、そして映像を当たり、事実を再構成していくのだが・・・

 この作家は自らの作品にひとつの制約を課す。それは作品を徹底して客観的な事実に基づくものにすること。しかし、65年も前の事件を完全に再構成することは不可能である。そこで作者が選んだのは、作者自身の一人称によるメタフィクション(いやメタドキュメンタリーとでも言おうか)の手法だった。

 こういう歴史的な事件を題材にして小説を書くなら、たとえば我が国の「忠臣蔵」のように、普通なら事実と創作が入り混じった作品になる。例えばハイドリヒ暗殺を実行したガブチークとクビシュを祖国の英雄として素晴らしいヒロイックな青年として描き、実際にはなかった英雄的もしくは善良さが際立つようなエピソードを書き加えたりするか、あるいは逆にとんでもない社会不適合者が正義のために命を賭けるみたいな感じに描いたり、あるいはやたらにふたりの友情を強調したり・・・まあそういった感じで話を大げさに盛ったりするのではないだろうか。
 そうでなくても、実際には交わされていない会話をさもあったように描写したりするくらいのことは、どんな作家でもやることだ。
 ところがローラン・ビネはそういう細かい創作を否定する。何から何までできる限り真実で構成しようとする。だから本来ならこの作品は限りなくドキュメンタリーに近づいていかなければならないのだが、ここでは作家の一人称で語ることで、小説としての機能が残され、わずかながら作者の創作の要素が入り込んでいく。作者は(世界中がもちろんそうなのだけど)ナチスの犯罪を憎み、チェコとスロヴァキアを代表するガブチークとクビシュに感情移入する作者の気持ちが、作品を微妙に史実と違う方向に進めていく。

 これは極めて斬新な作品である。「小説」という芸術のあり方として、こういう方向性がまだあったのか、と単純に感心する。取り上げた題材も巨悪の象徴であるナチスの中でも恐れられたハイドリヒという、ひょっとして生きていたらヒットラーを失脚させて、第2代総統としてナチス体制を磐石にさせたかもしれないとまで言われる「金髪の悪魔」を倒そうとした若者たちの物語なので、読んでいて非常にスリリング。ミステリ的な面白さもあってこれだけの複雑な構成を持つ巨編にも関わらず大変読みやすい。小説として極めて高いレベルの作品になっていると思う。

 …しかし、ガブチークとクビシュのやったことはテロなのだ。
作品の前半をよく読むと、ナチスによるチェコ併合が、チェコスロヴァキア各地での民族運動による内乱に乗じた相当強引なもの、というかほとんど脅迫的なものであったとは言え、大統領による署名を得た「合法的」なものであることが分かる。
 であれば、いかにナチスの横暴が酷かったといえガブチークとクビシュのやったことは現代の基準で言えばやはりテロなのだ。安重根(韓国の「英雄」。もちろん日本ではただのテロリスト)がやったことと大差ないではないか。

 そういうふうに考えると、正義とは一体何なのだろうか、と思ってしまう。
ナチスという悪に、テロという別の形の悪でしか立ち向かえなかった、そんな歴史が悲しい。
.12 2014 フランス文学 comment0 trackback(-)

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