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ディノ・ブッツァーティ タタール人の砂漠


 イタリアの作家ブッツァーティの作品というと、以前「神を見た犬」という短編集を読んだ。全体にレベルの高い短編集だったのだが、ひとつだけ非常に気に入らなかった作品があって印象が悪く、私の中ではカルヴィーノやタブッキに比べるとワンランク落ちる作家だと決めつけていた。それで文庫化さたことは知ってたがなかなか読まずにいたのだが、やっぱり気になって読んでみた。

 士官学校を卒業して少尉になったジョヴァンニ・ドローゴはバスティアーノ砦に配属され、故郷の町を出て任地へ赴いた。
バスティアーノ砦は北の国境地帯に広がる砂漠に面した要衝で、北方の蛮族タタール人の侵入に備えたものだったが、タタール人が攻めてきたことはここ数十年の間に一度もなかった。そのあまりの閑職ぶりに驚いたドローゴは早速転属を申し出るが、上官に健康診断がある四ヶ月後まで待てば適当な診断書を書いてやると言われ、それまでここに留まることにする。
 それが彼の、この砦での30年に渡る人生の始まりだった…

 ブッツァーティはここで、普遍的な『人生の虚しさ』について書いたのだ。ドローゴがいつか敵が攻めてきて英雄的に戦う自分を夢見るように、誰もが平凡な人生のなかでなにか素晴らしいことが起きるのではないかと思っている。だが大抵の場合、そんなことは起きないし、やっと起きかけても、ドローゴがそうであってように目の前を通り過ぎてしまう。
 会社勤めでも同じだ。平凡な毎日の繰り返しにすっかり慣れてしまって、多少不満があっても折り合ってそこに居続ける人が大半だろう。思い切ってあの時転職してたら違う人生開けたかもしれない、とそういうことを我が身に翻って思わせる、そんな作品だ。これまでの人生を振り返って苦い思いにとらわれる読者も多いことだろう。

 しかし、ドローゴは少なくとも2回、砦を離れるチャンスがあったのを無為に見逃しているのだが、もし彼が転勤し、砦を離れて街に戻ったとしても、もうマリアを愛することはできなかっただろう。それは砦の生活が長かったからではない。マリアと再会した時の幻滅は、ドローゴの任地がどこだったとしても同じように感じたものだったのではないだろうか。無為な生活が、ではなく、歳月が人の心を蝕むのだ。もしドローゴが強い気持ちでマリアを愛していたのなら、そんな幻滅は起こらなかったに違いないし、後腐れなく砦を後にしたのではないだろうか。職務の方を生活よりも大事だと思ってしまった人間の悲劇だと思う。

 いや、ドローゴは最後まで戦って名誉のために死ぬ自分を期待できたのだからある意味30年間幸せだったとさえ言えるのかもしれない。その期待を打ち折られながらも、笑みを浮かべ死との闘いに赴くラストは確かに悲惨ではあるが、人間の気高さを窺わせ秀逸。

 この作品を読んだら否応なしに思い浮かぶ作品がある。トーマス・マンの「魔の山」だ。軍隊と病院の違いはあるが、なんとなく居着いてしまい出られなくなってしまうところとか、どんどんスピードが上がっていく時間の経過、長い間そこに居ながら大した事件が起こらない事までよく似ている。
 「魔の山」は恐ろしく読みにくかったが、こちらはすんなり読める。だが7年間にあの分量をかけた「魔の山」を知っているだけに、「タタール人」は30年にこの分量では正直物足りない。30年の時の重みを感じられる巨大な作品であるべきだったと思わなくもない。
.23 2014 イタリア文学 comment0 trackback(-)

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