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ヨーゼフ・ロート 聖なる酔っぱらいの伝説


 岩波から出ているオーストリアのユダヤ人作家ヨーゼフ・ロートの作品集。中編・短編合わせて5作が収められている。これはもともと単行本何冊かで出ていたものをひとつにまとめたようで、そういう意味ではお買い得。

 冒頭に置かれた中編「蜘蛛の巣」は過激な民族主義に走る青年の姿を通してナチスを糾弾した作品、と思って読んでしまうのだが、これが書かれたのは1923年、ヒトラーが総統になる10年も前なのだ。ユダヤ人であるロートは、その頃はまだまだ小さな勢力であったナチ党の危険性を敏感に感じ取ってこんな作品を書いたのだろう。しかしそれにしても主人公テオドール・ローゼの名をアドルフ・ヒトラーに置き換えたら彼の伝記の一部だと思ってしまう読者がいても不思議ではないくらい後に起こった事実に、「予測」というよりは「予言」と言えそうなくらい近いという、驚くべき小説だ。ただ作者の処女作ということもあるのだろうか、残念ながら小説としては恐ろしく荒削りな作品で、話が端折られすぎて何が書いてあるのかよくわからない部分もある。

 民族主義というのは愚者の思想である。自分さえよければいいという考え方が民族とか国家とかのレベルになっただけのものだ。ナチスの犯罪はその思想の最悪の発現だと言えるだろう。だがこの考え方は現代でも世界中で幅をきかせている。今の日本にもそんな考え方の人間が非常に多い。世間様では最近なんだか零戦ブームらしい。特攻隊を描いた映画が大ヒットしている。特攻隊とイスラムの自爆テロに違いがあるのかと言うと世間の右の人々は目を剥いて色々と違いを述べるが、どっちも狂信的な民族主義から生まれた狂気の戦い方であることに違いはない。そんなことも理解せずに「愛する者のために命を投げ打った特攻隊員の行為は美しい」とか真顔で言う。ほんとに嫌な時代になってきたなと思う。
 これはそんな愚者の思想を糾弾する物語なのだが、社会を巻き込む大きなうねりになった愚者の思想に、我々はなすすべがない。読みながらそんな絶望を覚える作品だ。ロートはこの小説を発表したあと、いよいよナチス色を強めたドイツを捨て亡命、ナチスの崩壊を見ることなく亡くなっている。

 ほかの4作はどれもぐっと身近な内容の作品ばかりで、ある街を訪れた男の短い滞在の間の恋を描いた「四月、ある愛の物語」、事故の時怪我をしたロシアの伯爵夫人を保護し、その魅力に参ってしまった駅長は、彼女と再会したい一心で出征しロシアを目指す、という「ファルメライヤー駅長」、浮浪者同然の暮らしをしていた男に突然訪れる奇跡を描いた表題作「聖なる酔っぱらいの伝説」と平明な内容で非常に読みやすく、それでいて寓話的な深みも感じさせる好編が揃っている。

 この本は何冊かに分かれていたこの作家の作品を集めたものらしいが、「蜘蛛の巣」とほかの作品はなんだか別の作家の作品みたいに思えるくらいに印象が違う。ちょっと一冊に押し込むには無理があったような気がする。私は個人的には後ろの短編のほうが好きだ。
.06 2014 ドイツ文学 comment2 trackback(-)

comment

こちらの記事に惹かれて図書館で白水社版を借りてきたのですが、岩波文庫版よりも収録作が削られていて「蜘蛛の巣」は含まれていませんでした。ところで記事に「皇帝の胸像」についてだけは書かれていませんが、もしかして印象がなかったのでしょうか?個人的には白水社版の4作の中で最も印象的だったのですが。多民族国家だったオーストリア・パフスブルグ帝国が、ヨーゼフ・ロートの心の故郷としてやや理想化されすぎているのでしょうが、その後の歴史(現在も含めて)を見ると少なくとも民族間の平和が保たれていただけましだったのではと思えてきます。それはまた、チトーのユーゴスラビア連邦にも同じ事が言えるのですが。
2014.04.27 16:59 | URL | X^2 #CypyILE6 [edit]
「皇帝の胸像」は簡単に言えば「古い時代の象徴たる皇帝の胸像を埋葬する」という内容で、他の3作に比べるといかにもな作り話っぽい気がしてあまり好きではありませんでした。寓話っぽい部分がひねりなさ過ぎてストレートすぎる気がしまして…

「蜘蛛の巣」は文学作品としては大した作品ではありませんが、予言の書としてはちょっと驚くべき作品です。ぜひ読んでみてください。
2014.04.28 13:53 | URL | piaa #- [edit]

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