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ミカ・ワルタリ エジプト人


 以前抄訳版「ミイラ医師シヌヘ」を読み、非常に面白かったのだがその後見たハリウッドによる1954年の映画が抄訳版とえらくあらすじが違っているので、これは完訳版を読まねばなるまいと古書で購入。
 250~300ページの文庫3冊だが、昔の本なのでかなり文字がびっしり詰まっていて結構なボリュームだった。

 読んでみてわかったのだが、映画の方はこの作品の後半を重点的に映像化しており、抄訳版は映画でばっさりカットされた、作品前半のシヌへの諸国放浪の部分を重点的に収めてあるのだ。要するに抄訳版は映画を補っている感じだろうか。
 そもそも上巻の半ばくらいでシヌヘはネフェルネフェルネフェルに騙され、全財産と両親を失いエジプトから奴隷カプタだけを連れて脱出してしまう。そのあと各国を放浪するのだが、当時最先端の技術を持った医師として成功し財産と名声を得て、各国のエラい人たちと親交を結ぶ。やがてシリアで出会ったクレタ島の巫女ミネアを愛するようになるが、巫女としての義務を果たそうとするミネアはクレタ島の司祭のミノタウロスに殺害されてしまう。ここまでで中巻100ページくらい。えらいテンポ速い。
 そのあとエジプトに戻ったシヌヘは、アクナートン王(アメンホテプ4世)の寵愛を受け、メリトという恋人もできるが、王の提唱した宗教改革による混乱に巻き込まれる。これは実際に起こった事で、アマルナ改革として知られている。混乱のさなかメリトと息子トートを失ったシヌヘは旧友で実力者に成り上がったホレムヘブのアクナートン王暗殺に加担する。映画版ではシヌへが実は王家の息子だったということが判明、ファラオの権力争いに巻き込まれることになるが小説では「シヌへが実は王家の息子」のくだりは「そうだったかもしれない」と匂わす程度である。

 いやこれはすごい作品だ。当時の古代エジプトの知識を総動員したのであろうと思われるほど各国の風俗や政治状況など非常に細かく記述されていてフィクションなのに実際にシヌヘが書き残した一代記を読んでいるような感触がのこる。
 シヌヘに常に従い、道化のように見えながらのちにその商才でシヌヘを経済的に支えるカプタや、ヒロインたち(特にミネア)といったサブキャラが非常に魅力的に描かれている所も見逃せない。そしてそのミネアやメリトもいともあっさり殺されてしまう。命が軽い時代だったのは理解できるが、読者にとっては結構衝撃的な展開だといえる。史実を背景にして架空の人物を描くのは歴史小説の王道といえるのだが、医師であることを武器にして歴史にも関わっていくという設定がかなり説得力のある作品だ。

 これを読むと、上に書いたように命の重みに違いがあるとはいえ、古代であろうと、現代であろうと人間の営みに大きな差はないのだというのがよく分かる。神をめぐっての争い、宗教対立で国を二分する内乱になり、それに乗じて敵国が侵略を画策する。エジプトの力で守られていた周辺国家は危機に見舞われる、といった政治的な動き。そんな中で正義と愛を、権力と富を求める人々。善も悪もすべて世界の中に含まれているのである。
 だから作者はネフェルネフェルネフェルを裁かない。シヌヘは復讐を画策し、信じられないほどおぞましい方法で彼女を葬ろうとするが彼女はするりとその魔の手をかいくぐり、歴史の中に姿を消すのだ。

 人生は小説や映画とは違う。思いがけない出来事で人生がひっくり返ることはめったにないし、悪事が必ず報いを受けるとは限らず、努力や愛が実を結ぶとは限らない。これはそんな浮き沈みのある当たり前の人生を、古代エジプトを舞台にしてリアルに描いた傑作だ。

 ただ「エジプト人」というタイトルはあんまりだ。ちゃんとしたタイトルをつけるべきだ。「忠臣蔵」かなんかが「日本人」ってタイトルだったらイヤだもんね。
.09 2013 その他欧州文学 comment0 trackback(-)

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