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エリザベス・ストラウト オリーヴ・キタリッジの生活


 書店で何気なく手にとって、この作者のことも作品のことも全く知らなかったし、装丁が特に美しいわけでもなかったが、なんとなく買ってしまった。

 で、読んでみたらこれは傑作だった。この作品はアメリカのある町を舞台に、オリーヴ・キタリッジという元教師の女性を中心に、彼女ばかりでなくそこに住む様々な人々を主人公に取り上げて描いた連作短編集。その構造はアンダスンの「ワインズバーグ・オハイオ」を思わせるが、どの作品にもオリーヴが顔を出すせいか、あれよりは各作品の結びつきがやや強くて読みやすいような気がする。
 「ワインズバーグ…」の方は基本ジョージという青年が中心に据えられていて、それぞれの短編では人生に失敗した人々を描きながらも、全体ではジョージがその人生の失敗の巣窟のようなワインズバーグという町から抜け出していくことを描くことで、若者に希望を託すような終わり方だったのに対して、こちらの作品ではオリーヴの「老い」を直視して行く。ここには将来への漠然とした希望などはない。だが、決して読後感は悪くない。

 まず冒頭の「薬局」では、オリーヴの夫ヘンリーを主人公にして、彼が営んでいる薬局に従業員として入ってきた若い人妻デニースとの何年にもわたる心の触れ合いが描かれる。ここではオリーヴは良い人で通っているヘンリーの悪妻という立ち位置が提示されるが、オリーヴはこの短編全体から見れば背景にすぎない。
 次の「上げ潮」は死に場所を求めて故郷に戻ってきた教え子のケヴィンに、そうとは知らず出会ったオリーヴがなんだかんだと無駄話をしているうちに…といった物語で、ここでもオリーヴは重要な役回りながら主人公ではない。
 やっと彼女が主人公になるのは4作目の短編「小さな破裂」である。その後も彼女がはっきりと主人公を務める短編はそう多くはない。で、はじめはどうしてもこの押しが強くてわがままな印象のオリーヴという女性があまり好きになれないのだが、読み進めていくとだんだん彼女に親近感を覚えてくる。

 作品単体で言えば前述の「薬局」のほか、「飢える」「瓶の中の船」あたりが印象に残るが、一作一作の出来もさることながら、全体で一本ピシっと筋の通った作品集である。
 ラスト近くになると息子が出て行ったりヘンリーが倒れたり、オリーヴを取り巻く環境も悪化していく。やがて最後の作品「川」に至ると、ヘンリーは亡くなり、無力感に襲われている71歳のオリーヴの前にジャックという妻に先立たれた男が現れる。彼との静かな心の交流がオリーヴの心に小さな火を灯してこの作品集は締めくくられる。年齢とは関係なく、人の心には希望というものがあるのだという事の素晴らしさと、そして同時に老いの残酷さを描き出して見事な幕切れだ。

 オリーヴという一見我慢ならない女性を通して、「老い」というものを直視しながら、そこにあった人生の哀歓を、様々な登場人物のエピソードを描き込みながら連作短編のなかに見事に浮かび上がらせた素晴らしい作品だ。
 あと小川高義氏の翻訳がほんとうに見事。もともと日本語で書かれた作品と同じようにすんなり読める翻訳はそうざらにはない。
 正直かなり地味な作品ではある。普段私が勧める作品とははっきり傾向が違う作品だとは思うが、これはぜひ読んでみてほしい。
.23 2013 北米文学 comment0 trackback(-)

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