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野尻抱介 沈黙のフライバイ


 今年のテーマとして、日本SFの最近の代表的な作家の作品を何本か読んできたが、その最後を締めくくる形になったのがこれ。野尻抱介という作家の名前を聞いただけで、オールド天文ファンはニヤリとするだろう。この作家の名前はもちろん野尻抱影(天文に関する著書が有名な随筆家。「冥王星」の命名者としても有名)のもじりだからだ。

 そしてこの作家の作品は、野尻抱影の名前を借りたという事にふさわしいものであり、真のハードSFである。
ここで描かれていることはすべて現実の天文学と実際に提案された宇宙探査の方法論に則ったもので、現代のSFでこれだけ内容が正確で実際に起こりそうなものを、私は他に知らない。

 冒頭の表題作「沈黙のフライバイ」は、現実に提案された、『現代の科学力で可能な恒星間探査』のアイディアのひとつであるサーモン・エッグ計画をもとにしたフィクションである。サーモン・エッグ計画とは、1個が1g程度という極めて小さな質量しか持たない超小型の探査機を数万個のオーダーで目標の天体に送る。このうち1000個が目標の星系にたどり着くと、ネットワークを形成してあたかも巨大な一個の探査機のように振る舞い、探査と地球への送信を行うというものだ。この考え方で作られた探査機がよその恒星系から地球を訪れるという作品だ。
 これはすごい作品だ。こんなリアルなSF作品がこれまでにあっただろうか。登場人物たちの会話もいかにもJAXAの技術者のような理系の人々っぽいものでリアルだが、それよりもなによりも、普通の陳腐なSF小説ならどんなふうにでも話をふくらませらられるのに、この作品では異星人の探査機が太陽系を通過して行きましたという以外に何も起こらないのだ。その何も起こらなさっぷりがまさにリアルだ。
 例えばもし明日キュリオシティが火星で生命を発見しましたというニュースがNASAから発表されたとしよう。そりゃ数日は新聞やTVで大騒ぎになり、天文ファンやSFファンはこのニュースに釘付けになるだろうが、一般の人のリアクションはどうだろう。たぶん『そうなんだ~すごいね~』で終わりだろう。
 この小説に書かれている事も同じだ。どっか遠くの星に地球と同等かそれ以上の文明があり、そこから探査機がやってくる。それはすごいことなんだけど、実際に宇宙人がやってくるわけではないので一般の人々の興味を引くほどにはならないだろう。だからこそこの作品のタイトルは「沈黙のフライバイ」なのではないだろうか。

 「轍の先にあるもの」はニア・シューメイカー探査機が撮影した小惑星「エロス」の近接映像に写っている謎の溝の正体に関する考察から始まって、実際にそこに行ってみたら…という風に話が膨らんでいく。SFには非常に珍しい作者自身が主人公という作品。途中の軌道エレベーターができてしまうくだりがちょっと簡単すぎるきらいはあるけど、全体にやはり素晴らしくハードSFしている。
 「片道切符」は火星探査へ赴く二組の夫婦がトラブルに巻き込まれる物語。これが今回の作品集の中では一番「小説」らしい。「揺りかごから墓場まで」は日光さえあれば食料なしで生活できてしまう「閉鎖生態系」を実現してしまうC2Gスーツを中心に置いた作品だが、前半も後半も、そのC2Gスーツの設定があまり生きていない気がした。
 ラストの「大風呂敷と蜘蛛の糸」は大学生グループが気球と凧で宇宙の渚に挑むという作品。この切り口自体が極めて新鮮だ。

 どの作品も科学的にも物語的にもよく考えられていて素晴らしいのだが、登場人物のキャラクターがいずれも薄く個性を感じられないのが残念。特に「大風呂敷…」のヒロイン沙絵は描きようによってはもっともっと魅力的なキャラに出来たはずで、そうなっていたら作品自体の魅力も大幅にアップしただろう。
 そういう弱点はあるものの、他にはない全くオリジナリティの高いSFで、SF小説というよりは科学小説というか、要するにSFファンよりも宇宙ファンに読んでほしい一冊だ。常々宇宙SFの荒唐無稽さに辟易している私は非常に気に入った。この作家の作品、もっと読んでみたい。
.20 2012 SF comment0 trackback(-)

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