スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
.-- -- スポンサー広告 comment(-) trackback(-)

イワン・エフレーモフ 丑の刻


 以前から読みたいと思っていたエフレーモフの長編。二段組で450ページに達する大作だ。
あの「アンドロメダ星雲」と同じ世界だが、続編というわけではなく、あれよりもさらにずっと未来の物語である。

 女性歴史学者ファイ・ロジスをリーダーとした宇宙船「黒炎号」は惑星トルマンスを訪れた。この惑星は2千年も前に地球を飛び出した人たちが暮らしていたが、そこは一部の人々が多勢の人々を虐げる独裁社会であった。理想世界を達成した地球人の目には地獄のようのように見えるトルマンスの人々の意識を改革しようと「黒炎号」のメンバーはトルマンス社会に干渉をはじめる。「真の共産主義者」エフレーモフが描く「完全な共産主義による理想国家」の人々は、独裁国家にどう挑むのか。もちろん彼らの選択肢にはクーデターのような暴力的なやり方はない。

 似ている。ストルガツキーの「収容所惑星」に。そして「スター・トレック」シリーズに。
 思うにソビエトSFでは、『開発途上の惑星の人々を人類が救おうとする』パターンが多いのだろうか。それとも単に私の読んだものがたまたまそうだったのだろうか。しかしストルガツキーが「収容所惑星」でも、「神様はつらい」「地獄から来た青年」でもそういった介入が悲劇的な結末になったりとうまくいかない様子を繰り返し描いているのに対して、エフレーモフはかなり楽天的である。

 さてトルマンスの社会は、一部の指導者とそれを支えるインテリたち、そして最下層の人々というピラミッド型の構造をなしており、最下層の人々は25歳で安楽死させられ、「ハヤ」(「早死に」の意)と呼ばれている。能力の高いものはインテリとして指導者たちのブレーンとして長生きする権利が与えられ、「ナガ」(「長生き」の意)と呼ばれる。ナガは自分たちの地位を守らないといけないので保守的・官僚主義的になってしまっている。「ハヤ」のほうは十分な教育を受けていないので粗野であるが、その反面健康で思考が柔軟な面も持っている。というようによく考えられている。
 ここに描かれたトルマンスの社会は、よくある独裁主義国家のカリカチュアなのだが、どう見ても資本主義国家には見えない。それどころか当時のソビエトを彷彿とさせる部分もある。エフレーモフは共産主義を賛美しながら、それに相反するものとして「資本主義国家」と並べて「エセ社会主義国家」をも糾弾しているが、実は当時のソビエトも「エセ社会主義国家」と考えていたのかもしれない。

 主人公たちはこの社会に暮らす人々に向けて自分たちの共産主義ユートピアの素晴らしさを説くのだが、なかなか理解してもらえず悪戦苦闘する。本来の彼らの思想から言えば、長い時間をかけて人々を啓蒙し理想社会へ導かなければならないはずなのだが、結局はクーデターに関与することになるわけで、正直どうもそういう展開が今ひとつ気に入らなかった。ラストの方で「黒炎号」の隊員ヴィル・ノリンが現地の娘シューテと恋に落ちるエピソードも唐突すぎる。他の隊員たちのエピソードと同時進行で初めから描いていたら説得力があったかもしれないのに残念。

 そしてなにより気に入らなかったのは、ラストで独裁の暗黒時代を抜けだしたトルマンスの人々が、ファイ・ロジスらを英雄として銅像を作って崇めているところ。これはファイ・ロジス本人ならずとも、共産主義理想国家の一員であるなら『これはファイ・ロジス本人の功績ではなく、理想を求める人類の勝利なのだ。誰が隊長であったとしても同じようになった』と言わなければならない。英雄を銅像にして崇めるような事は、理想社会にはありえないと思い、強烈な違和感を持った。ロシア人は銅像が好きなので、さすがのエフレーモフもそういう思考の呪縛からは逃れられなかったのだろうか。
 
 またこの作品はあらゆる部分で「スター・トレック」シリーズを連想させる。登場人物たちが政治的な発言はほとんどしないながらも、スター・トレックの社会が共産主義ユートピアである事は議論の余地がないが、物語の進め方や前提からしても非常に似た面が多い。この作品自体スター・トレックの一エピソードとして映像化されたとしても全く違和感がないと思う。まああっちの方がキャラが濃い事は間違いないけど。
 「スター・トレック」の原作者ロッデンベリーはこれと「アンドロメダ星雲」の両作品を絶対読んでるんじゃないのかと思えてしまうほどだ。というわけで「スター・トレック」ファンのかたにはぜひ一度読んでみることをお勧めする。
.16 2012 SF comment2 trackback(-)

comment

> またこの作品はあらゆる部分で「スター・トレック」シリーズを連想させる。

この作品はずっと昔に読んだ事があり、そのときは全く気がつかなかったのですが、確かにその通りですね。もう一度こちらの記事を読んで、TOS第三シーズンの "The Cloud Minders" 「惑星アーダナのジーナイト作戦」を正に連想しました。
ソビエト時代の「社会主義レアリスム」系の作品は、現在ではすっかり馬鹿にされて、読むに耐えないものとしか評価されませんが、さすがに一流作家の作品の場合には、たとえ表面的に社会主義麗賛の物語でも一味も二味も違うのでしょうね。そう考えると、レム本人は全く認めていないという「マゼラン星雲」も、一度読んでみたい気がします。
2012.09.19 22:42 | URL | X^2 #CypyILE6 [edit]
ご案内のTOS「惑星アーダナのジーナイト作戦」、見直してみました。
確かによく似たシチュエーションの話でしたね。

私ははっきり言って、現在の資本主義では人類はもたないのではないかと思っています。
人類が扱える資源が尽きる前に、どこかで共産主義もしくは何か他の理想的な新しい政治形態に切り替わらないと、人類は滅びる可能性が高いのではと思います。
今は廃れてしまった共産主義ですが、「新スタートレック」でピカードの語る社会が実現したら、それは紛うことなき共産主義社会です。そういう時が来たら再評価されるかもしれませんね。エフレーモフ。
2012.09.21 19:20 | URL | piaa #- [edit]

post comment

  • URL
  • comment

  • password
  • secret
  • 管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

piaa

  • Author:piaa
  • Livedoorへ移転しましたので、そちらでお願いします。
    http://blog.livedoor.jp/piaa0117/

    こちらのブログへのコメントはLivedoorに転載しますが、定期的にチェックしないので相当遅くなることもあります。

ブログナビ

P&M_Blog
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ --年--月
  ├ カテゴリー
  |  └ スポンサー広告
  └ スポンサーサイト
P&M_Blog
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ 2012年09月
  ├ カテゴリー
  |  └ SF
  └ イワン・エフレーモフ 丑の刻

カレンダー

10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -

月別アーカイブ

カウンター

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。