スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
.-- -- スポンサー広告 comment(-) trackback(-)

梨木香歩 f植物園の巣穴


 この作品って単行本が出てからたしかまだ3年くらいしかたたないと思うんだけど、早くも文庫化されていたので速攻入手。「家守綺譚」に似たテイストの作品ということで期待しながら読んだ。

 主人公佐田豊彦は植物園に勤務する園丁。妻を亡くし下宿住まいである。ある日歯の痛みに耐えられず歯科医を受診するのだが、歯科医の助手が犬であることに気づく。それをきっかけに彼の周りに様々な不思議な事が起こるようになる。

 最近の日本文学でよく見かける、なにか現実とはずれたような出来事が起こるファンタジーぽいテイストの作品。小川洋子とか川上弘美とかそっちぽいプロットを持った作品である。ただ梨木がそういう凡百の作家と違うのは、時代背景に添っているからでもあるが、日本文学の伝統を感じさせる格調高い文章表現力があるという点。さらにこの作家ならではのイングリッシュテイスト。祖母が語るアイルランドの妖精譚。さらにここではこの作品の構造自体が「不思議の国のアリス」を踏襲している点も見逃せない。あとは植物に対する大変な知識。あらゆる面でレベルの高い作品だ。
 終盤の「坊」と一緒に自分の過去を探訪する下りは詩情にあふれながらなんとも言えない迫力も合せ持っていて読み応えがある。ねえやの千代のエピソードや、坊の正体が明かされる下りは非常にインパクトがある。

 それでも決して私はこの作品が好きではないのだ。

 私が文学作品に限らず、マンガでも映画でも、とにかくストーリーのあるものでどういう作品が気に入らないかと言えば、それは辻褄が合わない作品なのだが、たとえばSFの場合、科学的に辻褄の合わないものがほとんどである。「宇宙戦艦ヤマト」の宇宙艦隊は少なくともあんな形ではガミラス艦隊と交戦できないし、私の愛するレムの作品でさえ「砂漠の惑星」の黒雲はあれ単独であの惑星に何千年もの間存在できるはずがない。 だが、それはSFというジャンルの性格上ある程度はしかたのないことであるわけで、そんな科学的な矛盾は作品全体から見れば小さな事だ。そこに描かれている人間の行動や考え方に矛盾がなければよい。「ヤマト」も「砂漠の惑星」もそういう面では矛盾はない。
 逆にこの春放送されたアニメ「あの夏で待ってる」は、そのSF要素そのものではなく、そのSF要素によって規定されるべきヒロインの行動がすべて矛盾していた点で全くダメな作品だった。住民との接触を禁じられた惑星にやってきてのこのこ高校に通うとかその時点でおかしい。アニメには練られていないシナリオが多いのでよくこういうものがある。「輪るピングドラム」も登場人物が当然はじめから知っている事実を、あたかも知らないかのような行動をとる矛盾が非常に目立った。
 要するに実際の人間ならとらないような判断とか行動をしてしまうということなわけだ。有名な文学作品にも結構あるんだなこれが。マキューアンの「アムステルダム」がまさしくそうだった。主人公たちの動機と行動のバランスが矛盾している。スタンダールの「パルムの僧院」なんかもこれに近い。

 ところがこういう矛盾をすべて解決する魔法の解決法がある。「夢オチ」だ。

【以下激しくネタバレ】

 この作品のラストは、完全な「夢オチ」である。ねえやの千代が死んだことを忘れていたことも、妻の千代が死んでいたことすらなかったことになっている。そこに激しく違和感を覚える。
 まあ実際夢では誰か別の人と結婚してたりすることはあるので、妻が死んでいるというシチュエーションの夢だってあるだろう。だがこの作品には「不思議の国のアリス」のような、冒頭に「夢オチ」を示唆するような描写が一切ないこともあって、この作品の「夢オチ」はかなり唐突な印象を与える。なんか安易な方向でまとめちゃった感が拭えない。

 はたしてこの作品、最後の「夢オチ」のどんでん返しは必要だっただろうか。そのまま歯医者から自分ひとりの家に戻って終わりで良くなかっただろうか。もちろんすごく暗い印象の終わり方にはなるけど、中途半端なハッピーエンド感のある「夢オチ」よりも作品として座りは良かったのではないだろうか。せっかく様々な深いイメージのエピソードを散りばめた素晴らしい作品なのに、このラストがどうにも気に入らず残念だった。

 レムの「泰平ヨンの現場検証」という作品がある。現実世界のおぞましいカリカチュアを目の当たりに突きつけられて、もはや「夢オチ」さえ許さないレムのペシミズムが強烈だ。
 それに対して梨木の作品はもっと個人的・内面的なものだが、主人公の内面の歪みのむこうに仄明るく救いを見せておきながら、最後の最後で「夢オチ」に逃げてしまった。惜しい。
.26 2012 日本文学 comment0 trackback(-)

comment

post comment

  • URL
  • comment

  • password
  • secret
  • 管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

piaa

  • Author:piaa
  • Livedoorへ移転しましたので、そちらでお願いします。

    こちらのブログへのコメントはLivedoorに転載しますが、定期的にチェックしないので相当遅くなることもあります。

ブログナビ

P&M_Blog
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ --年--月
  ├ カテゴリー
  |  └ スポンサー広告
  └ スポンサーサイト
P&M_Blog
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ 2012年06月
  ├ カテゴリー
  |  └ 日本文学
  └ 梨木香歩 f植物園の巣穴

カレンダー

06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

月別アーカイブ

カウンター

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。