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上田早夕里 魚舟・獣舟


 日本SFを読む第5弾は上田早夕里「魚舟・獣舟」。2009年の日本SF大賞の選考で伊藤計劃「ハーモニー」と大賞を争い、敗れたそうだ。
 結論から言ってしまえばこっちの方が「ハーモニー」よりもはるかに優れている。選考委員だった飛浩隆氏がブログで選考理由を書いているのを読んだ覚えがあるが、実際の作品を読んでしまえばどんな理由をつけてもこっちのほうが優れていることは明白。芥川賞やブッカー賞などと同様、日本SF大賞ってやつも当てにならんということかな。

 冒頭の「魚舟・獣舟」から独特の、強烈なイメージと世界観で読者を圧倒する。
これは近未来、陸地の大半が水没し人類が海に住むことを余儀なくされた時代が舞台。陸地の監視員の主人公は幼馴染の美緒と再会する。美緒は上陸する「獣舟」を助けようとしていた・・・
 かなり特殊な設定が新鮮。どことなく日本的な雰囲気も印象的で、おおこれは凄い作品だなあと思ったのだが、
 しかし、それも実は2作目に置かれた「くさびらの道」という作品の露払いにしか過ぎないのだ。わずか30ページほどのこの作品は解説にもあるように現代日本を舞台にしたバイオ・メディカルSFサスペンス・ホラーである。西日本で発生した、菌類を媒体にした致死率の高い伝染病が爆発的に広がり、感染地域は封鎖される。そして封鎖地域には死んだ患者の幽霊が出ると噂が立つ。実家が汚染され両親と妹を失った主人公は妹の婚約者と二人で封鎖地域を完全防備で尋ねるが・・・というストーリー。
 これは凄い。SF的にはかなり強引な設定であることは認めないといけないが、そこでの展開と主人公の心の動きがきわめて見事に描かれている。レムの「ソラリス」の設定を現代日本に持ち込んだ作品として梨木香歩「沼地のある森を抜けて」が記憶に新しいが、これはそれをさらに凝縮したような内容で、ソラリスの「お客」などよりもはるかに曖昧な「幽霊」という形を取ることでさらに主人公の心に踏み込んでいこうとする。しかもこれほどのアイディアなら長編に仕立てても十分いけるはずなのに、短編にまとめてしまうことでさらに強烈な印象を読者に与える事になった。

 最後に収められた中編「小鳥の墓」も素晴らしい。SF的な要素はさほど大きくはなく、ある犯罪者が犯罪者になるまでを、彼自身の回想の形で描く。ここで少年が見る世界の描写の容赦のなさが見事。ストーリーの運びも無駄がない。この作品は長編「火星ダーク・バラード」と内容的に関連しているらしい。ぜひそちらも読んでみようと思う。

 収録された6作を通じてきわめて文学的で、特に上に挙げた3作に関して言えば、SFチックな設定の純文学が多い昨今の水準で言えばへたな純文学よりもはるかによく書けていると思う。SFファン以外の人にもぜひ読んでほしい。
 ひとつだけ残念なのはこの装丁。表紙のイラストが安っぽくて作品の品位を下げている。なんとなく書店で買いにくい装丁だと思うのだがどうだろう。
.02 2012 SF comment0 trackback(-)

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