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オルハン・パムク わたしの名は赤


 トルコのノーベル賞作家、オルハン・パムクの代表作。従来藤原書店からハードカヴァーで出ていたが、4000円弱とあまりに高額で手が出ずにいた。もっともこの藤原書店版、翻訳にかなり問題があったらしく、ネットでもかなり叩かれていた。そういうこともあってか早くも新訳版が文庫で登場。とはいえ上下巻で2100円だからそれでも結構高額ではあるが…

 16世紀、イスタンブール。細密画の絵師『優美』が殺害される。この殺人の背景には『優美』の上司である『おじ上』が皇帝の命により製作させていた写本の内容が関わっているらしい。12年ぶりにイスタンブールに戻ってきたカラは『おじ上』を尋ねるが、かつて愛したシェキュレの夫が戦争から未帰還であることを知る。やがて第2の殺人が起こり、カラは皇帝に犯人探しを命じられるが・・・

 パムクは、ノーベル賞作家としては珍しくエンターテインメント性の高い作品を書く作家だと思う。この作品にしても、殺人事件とその犯人探しがベースに置かれ、読者は犯人を探して16世紀のイスタンブールの街を彷徨うことになる。ただじゃあこれが単なる歴史推理劇かというと、それもやっぱり違う。この作品は16世紀トルコを舞台にしたミステリ仕立ての高度な文学になっていると言っていいだろう。

 この作品は短い59個の章に分かれているのだが、それぞれが別の人物による一人称で書かれている。いきなり冒頭の章で殺害された『優美』が語り出して度肝を抜かれるが、それから殺人者の語る章があったりする、もちろん主人公と考えていいだろうカラと、ヒロインであるシェキュレに重点を置かれてはいるが、その他様々な登場人物のみならず「犬」とか「馬」、果ては「金貨」、さらに色である「赤」まで、この物語の語り手は非常に多岐にわたる。そうして立体的に描かれるのは全くわれわれ日本人には想像できないようなイスラムの文化である。

 私ももちろんそうだが、大抵の方には細密画の世界は全く未知の世界といってもいいだろう。偶像崇拝を禁じるイスラムでは本物そっくりな精密な絵画が禁じられ、神の視点を守るといっては遠近法が禁じられ、要するに信仰が絵画の世界の進歩を阻んでいる。(イスラムが阻んでいるものは絵画の進歩だけではない。たとえば女性の権利などいろいろあるのだが、まあそのことは置いといて)このため絵師たちは個性を発露することができない。『おじ上』らは西洋の写実主義的な絵画を見て衝撃を受け、細密画の世界を革新しようと考えるのだが、そこにもやはり保守派がいて革新を許さない。イスラムをめぐる様々な現代の事件同様、ここでも革新派と保守派のせめぎあいが物語のうねりを作り出すのだ。

 というようなイスラムに関する大上段に構えた内容を内包しながら、推理と恋愛という通俗的な2大要素と並行して描き込むことで非常に読みやすい形で我々の前に示す。ややもするとこういうことをやると通俗に堕してしまうのではないかと思うのだが、いささかも品位を落とさないこの作品、さすがにパムクの代表作と言われるのも納得である。
 そして、事件が解決してめでたしめでたし、という感じとは程遠いラストが見事だ。シェキュレの次男の名前が、こんな形で生きてくるとは思いもしなかった。
.25 2012 その他欧州文学 comment2 trackback(-)

comment

ごぶさたしております。
書名のみで、読んだことはなかったのですが、piaaさんのご推奨だから読んでみようと思っております。

昨年は、「緑の家」とか短編コレクション2とか教えていただいたり、久々に「神々は渇く」再読のチャンスを作っていただいたり、このブログにはお世話になっております。ついでに短編コレクションの中でランペドゥーサの名前を見つけて「山猫」を再読したり、昨日の晩は久々にゴールドベルクを聞いたりと、何かと影響を受けるんですよ。

あ、鳥栖のJ1昇格おめでとうございます。
うちのサンガは‥‥天皇杯の勢いがあればいいんですけどね(笑)。
2012.03.14 11:10 | URL | ぷんちち #- [edit]
ぷんちちさん、こんばんわ。いつも読んでいただいてありがとうございます。
この『わたしの名は赤』はこれまで読んだパムクの中では一番いいと思います。
我々日本人には遠いイスラムの人々の暮らしが活写された作品で、そういう意味でも貴重な作品かと。ぜひ読んでみてください。

でも最近読みたい本がなかなか見つからなくなってきて読書のペースが落ちてまして、なかなか作品を紹介できないので申し訳なく思っています。逆に何かおもしろかった作品など教えていただくと嬉しいです。

サンガは今年下馬評が高いようですね。うちもなんとか残留しますので来年はJ1で対戦しましょう。
先日鳥栖の開幕戦を観戦した時に、セレッソサポの方とお話ししたのですが、彼らが言うには「ガンバサポは最低、サンガサポは良い人ばかり」だそうです。
ちょうどわれわれ鳥栖サポがアビサポはクソ、ロアッソサポは良い人ばかりと思っているのと同じなんでしょうね。面白いです。
2012.03.15 00:31 | URL | piaa #- [edit]

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