
去年の秋くらいからわりとSFを読んでいるんだけど、この際日本人作家のSFをもうちょっと力を入れて読んでみようかなと思ったりしている。とはいうものの、しばらく前に読んだ
円城塔(芥川賞候補になっているらしい。けっ)がひどかったりしたので何を読もうかな、と考えた挙句
「グラン・ヴァカンス」が素晴らしかった飛浩隆の初期短篇集を手にとった。
収録作は4作。冒頭の
「デュオ」は音楽サイコミステリー。シャム双生児(という言葉はでてこないが)のデネスとクラウスがそれぞれの手で一人分の演奏をするピアニストのグラフェナウアーズと調律師として関わることになったイクオ。グラフェナウアーズは驚異的でデモーニッシュな演奏で楽壇の注目の的になるが…
SF的な要素はそれほど多くはないが、非常に完成度の高い一作で、音楽に関する記述の部分でもクラシックファンにも全く違和感のないものだ。ヴォルフの「ゲーテ歌曲集」を知っていればその音楽とこの作品がいかに響き合っているかよくわかると思う。私も聴きなおしてみたくなった。音が重要ファクターの作品なので映画化したら良さそうだ。
「呪界のほとり」は一転してファンタジーSF。魔法が使い放題という宙域、呪界の住人・万丈は誤って呪界の外の物理世界の惑星に出てしまう。そこで遭難しかかっていたところを、パワーズという爺さんに助けられるが…というストーリーが、比較的コミカルな調子で語られる作品。比較的平明な話で非常に楽しく読める作品。もっとこういう作品も読みたい気もする。禅問答みたいなラストがいい。
次の
「夜と泥の」は、テラフォーミング済みのある惑星の夏至の夜、「それ」が現れる。それは数百年も前に生きた少女の亡霊。この奇跡のような悪夢のような出来事を、作者は圧倒的な描写力で描き出す。特に大きなストーリー展開はないが、私はこれが一番好きだった。ただ星野之宣の作品にこれに似たシチュエーションの作品があったような気がする。
ラストは表題作
「象られた力」。惑星をも破壊する力を秘めた、惑星百合洋(ユリウミ)の象形文字。これがひとつの惑星を破壊していくまでを描いた作品で、終盤のカタストロフィのイメージのインパクトは強烈。ただ160ページほどの短い作品なのに登場人物が多すぎるうえに圓(ヒトミ)とか全く読めない人名のため極めて読みにくい。
斎(イツキ)と環(タマキ)のエピソードはこの文庫化に当たって書き加えられたらしいが、本当に必要だっただろうか。ラストではこの作品自体が後の人々によって再構成されたものであることが明かされるという、ひねった構成が面白い。
というわけで、期待通り面白かった。飛浩隆は本当に素晴らしい作家だと思う。映像が目の前に浮かぶような文章もそうだが、破壊的でありながら下品にならないところも素晴らしい。しかしこの作家はこれらの作品を発表したあと10年も新作を出さず、やっと最近「廃園の天使」シリーズ(「グラン・ヴァカンス」と
「ラギット・ガール」を出したのだが、次の「空の園丁」はまたいつまでたっても出ない。
だいたいこれほどの作家が別に本業を持つパートタイム作家であるというのが腑に落ちない。でもたくさん書いてクオリティがさがるよりはいいか。
私は飛さんはレムをほとんど意識していないと思いますよ。
作風が全く違います。
「象られた力」だけは最後の方でメタフィクション的になるのがレムっぽいと言えばレムっぽいと言えなくもないですが…
リンク先の飛さんの文章はあくまで先達への敬意を表しただけだと思います。
短篇集よりも「グラン・ヴァカンス」を読んだほうがいいです。本当にすごい作品です。
おひさしぶりです
ワタシはこれはどうもダメで途中で挫折してしまいました。。。
ワタシも『グラン・ヴァカンス』を攻めるべきでしょうか・・・
で、「けっ」とまで仰られる円城にも逆に興味がでてww今度読んでみようかとw
あらmanimaniさん、おひさしぶり。
え~、これがダメでしたか。何がダメだったのかな。
グラン・ヴァカンスはすごい作品ですよ。ぜひ読んでみてください。残酷さなどさらに強烈にパワーアップしてますが。
最近小川一水というSF作家の短篇集も読みました。こっちのほうがmanimaniさん向きかも。近日レヴュー上げます。
円城はありゃ、人の血が通ってません。頭だけで考えた作品です。SFに限らず最近そんなのが多いですよね