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アーシュラ・K・ル・グィン 所有せざる人々


 最近ではもっぱら「ゲド戦記」の作家として有名なル・グィンの、SF作家としての代表的傑作。最近新しいカヴァーで再発されているのを見かけて本棚から引っ張り出して25年ぶりくらいに読んでみた。

 タウ・セティ星系の二重惑星、ウラスとアナレス。ウラスは地球に似た豊かな環境の星で、いくつかの国家が栄えている。自由経済に支配されたウラス社会は貧富の差が激しく、生活に窮した下層住民に「オドー主義」という共産主義的思想が広まり、やがてオドー主義者たちはウラスよりも過酷な環境のアナレスに移住する。それから約200年。アナレスの物理学者シェベックは、自分の「一般時間理論」がアナレスでは理解されない事からウラスへ渡ることを決意する。しかしそれは200年間人的交流を拒んできたウラスとアナレスの関係に風穴を開けるものだった・・・

 1974年に書かれたこの小説は、もちろんただのSFではない。二重惑星、宇宙船、第三者としてのテラ(地球)人などといったSF的な意匠を施されていはいるが、これは発表当時アメリカで吹き荒れていたヒッピー・ムーヴメントについて描かれた作品なのだ。アナレスの社会は無政府主義で武器を持たず、完璧なフリーセックス。豊かではないが「誰かが食べている時に誰かが飢えているということない」全てが平等な社会である。完全にヒッピーのコミュニティを惑星単位に拡大したものである。一方のウラスは現在の日本やアメリカと似た資本主義国家で、一見豊かだが貧富の差があり、裕福なものは素晴らしく豊かな生活をしているが、貧しいものはかなり劣悪な生活環境で暮らしている。
 アナレスの「ユートピア」しか知らないシェベックがウラスへ行こうと決意するまでと、ウラス政府の意向に背いてアナレスに帰るまでを交互に描いた構成のこの作品は、シェベックの目を通して、当時のアメリカの暮らしとヒッピー・コミュニティの暮らしを対比させたものである。

 ヒッピーや共産主義が「ユートピア」を目指していたのは自明のことだが、ではなぜそれは実現できなかったのだろう。それは簡単で、世界は「ユートピア」たりうるリソースが不足していたのだ。たとえて言えば、「ユートピア」では当然100人の人に100人分以上の食事が必要になるのだが、80人分しか用意できなければ20人が餓死するか、それとも全員が20パーセント不足した食事でガマンするかという事になる。もちろん彼ら(アナレスの人々)の選択は後者である。だが人間というやつは腹が減っていても、全員が平等ならば不満を言う事はない。リソースが足りないのは資本主義(ウラス)でも同じ事だが、餓死寸前の人々がなんとかして食えるように不満を言ったり、盗みを働いたり、頑張ったりするのが大きな違いである。で、犯罪が起きたり反政府デモが起きたり、アメリカンドリームが起きたりするのだ。そこに住む人々の特性を作者はウラスの「所有する者」、アナレスの「所有せざる者」というキーワードで端的に対比させている。そして、それぞれの社会に住む人々が、もう片方の社会の要素を持ち続けていることが描かれている点がこの作品の深いところだ。主人公シェベックは、それぞれの社会のよくない部分をそれぞれに思い知らされて苦悩する事になる。

 ヒッピーのコミュニティをテーマにした作品というと、たとえばブローティガンの「西瓜糖の日々」あたりが思い浮かぶ(いや,正確には違うのだが)が、これはあの作品のような詩的にぼかされたものではなく、ひとつの惑星がヒッピー・コミュティだったとしたらどんな問題が起こるか、ということをかなりしっかり考えた作品で、そういう意味ではまさにSFと言えるかもしれない。かなり重い作品だが、シェベックが何も持たずにアナレスへ戻る=「所有せざる者」であることを選ぶラストには感動を覚える。

 ちなみに最近新カヴァーで出たが、マンガチックで×。旧カヴァーのほうが好きだ。
.21 2011 SF comment0 trackback(-)

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