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スタニスワフ・レム 金星応答なし


 本をなくしてしまって読めずにいたのだが今回約25年ぶりに入手して再読した。もちろん細かい所は全く覚えていなかったので初めて読んだのとほぼ同じだ。これは1951年発表の、レムの事実上の処女作。

 ツングースの爆発から100年、共産主義ユートピアの世界を作り上げた人類はシベリアを開発中にツングースの爆発の原因となったある物を発見する。それは異星からやってきた謎の宇宙船の残骸であった。詳しく分析した結果この宇宙船が金星から飛来したものである事が判明、人類は最新の宇宙船コスモクラートル号を金星の調査に向かわせる。

 とにかく書かれた時代が時代なだけに、書かれた科学的内容が今の目から見るとかなり怪しい。金星の環境は当時まだ知られていなかったので仕方がないにせよ、軌道上での宇宙船上での重力のありかたとか、航行中の金星の見え方など明らかに間違った記述もある。古いがゆえの間違った記述は、古典SFにとっては宿命的なことで、作品によっては致命的な欠点にもなるのだが、この作品に関して言えば、それはさほど気にならない。というか最初のほうで語られるツングースや金星云々といったマクラの部分「第1部」にそういった間違いや共産主義礼賛っぽい部分が集中していて、気になるなら正直読まなくてもいいだろう。しかしレムファンなら、ツングースの爆発を巡る記述や、コスモクラートル号の細かい構造を子供たちに解説するシーンなどの部分こそが後のレムの衒学趣味の最初の発露として興味深く読めるに違いない。

 物語は第2部に至って金星を調査して様々な驚異や危機に直面するコスモクラートル号の乗組員達の活躍を描くストレートなSFに発展する。コスモクラートル号はただのロケットなのに大気圏内を飛び回るのはSF考証的に確かにおかしいが、「砂漠の惑星」の「無敵号」と同様の宇宙巡洋艦だと思って読めばいい。そう思うとこの作品は後のレムの代表的な作品に非常に似ている部分が多い事に気づく。
 金星に到着して主人公のパイロット、スミスは艦載機で偵察に出るが、電波の異常でコスモクラートルと連絡が取れなくなる。スミスは着陸し、そこで謎の「金属の虫」と遭遇する。これは「砂漠の惑星」の「黒雲」を連想させるし、それ自体がひとつの生物である電解質の川は、まさしく「ソラリス」の「海」の原型であるといえる。地球の宇宙船が他の惑星を訪れ、そこですでに滅んだ文明が残した謎の存在の抵抗に遭うというプロットは「砂漠の惑星」に極めて近いが、同時にレムの最後の作品と言ってもいい「大失敗」にさえも似ている。
 この作品、レム自身再刊時に大幅に手を入れようかと考えたらしいが、ほとんどすべて書き換えることになるとして改訂は行われなかった。もし改訂されていたら、きっと舞台が金星でなくどこか他の星系の惑星ということにして、いよいよ「砂漠の惑星」や「エデン」や「大失敗」に似たなにか別の作品になっていたもだろうと思う。それはそれで読みたかったかも。

 そして、何よりこの作品は、レムがまだ人類の明るい未来を信じていた頃の作品である。登場人物たちも、それらを創造したレム自身も、なんと楽天的なことか。だからこの作品は希望に満ちていてとても美しい。のちのペシミスティックなレムが想像できないくらいだ。この時代、あのレムでさえも共産主義による輝かしい未来を信じていたという事だろう。レムが味わった幻滅が、彼の作品をより深いものにしていったのであれば、歴史とはなんと皮肉なものなのだろうか。
.19 2011 スタニスワフ・レム comment0 trackback(-)

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