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熊谷達也 山背郷


 熊谷達也と言えば「邂逅の森」があまりにも素晴らしかった。なのであちらを読んだあとすぐこの本もすぐ入手したのだが、先に読んだ作品が良かっただけに逆につまらなかったらどうしようというつまらん危惧からなかなか読み出せなかった。本書は「邂逅の森」を書く前の時期、2000年から3年間くらいの期間に書かれた短編をまとめた短編集。

 結論から言えば私の危惧は全くの的外れだった。ここに収録された9個の短編はいずれも見事に描きこまれた素晴らしい作品ばかりである。昭和のはじめごろの東北地方などを舞台に、マタギだったり潜水夫だったり、川船の船長だったりとさまざまな人々の生き様を描いた作品が並んでいる。本当にどれも素晴らしい作品ばかりなので私がぐだぐだ言うよりもまあとにかく読んでくださいと言うしかないのだが、それでは記事にならないのでそれぞれの作品についてちょっと思ったことなど書いてみる。

 「潜りさま」は息子を失って仕事をやめた潜水夫が、洞爺丸の事故に遭遇し、後輩潜水夫の助言もあって潜水夫として再起する事を決意する物語。人は危機に瀕した時に力を見せるのだ、と力まないところがいい。
 「旅マタギ」は主人公の略歴がほとんど同じなので明らかに「邂逅の森」の原型になった作品と思われる。ただし、ラストの情景は「邂逅」とはかなり違っていて、短編として見事にまとまっている。
 「メリイ」はこの作品集中白眉の一作。父の遺品として発見されたカメラに入っていたフィルムを現像すると、少年だった自分と、当時飼っていた犬のメリイが写っていた。主人公はメリイと過ごした日々を思い出す。少年を主人公に据え、他の作品とは明らかに違う色合いを持つ作品だが、ミステリー的な部分もあって一気に読ませる。「オカミン」も少年を主人公にした傑作で、アイガー北壁に挑戦する登山家と霊媒師という全く違う要素がうまくバランスしている点が見事。
 不気味だが怖くない船幽霊の話「モウレン船」、狼を探す教授と彼をガイドする地元の猟師の物語「御犬殿」、川舟を操る老夫婦が台風の影響で増水した川と激闘を繰り広げるが、ユーモラスな幕切れが人間の靭さを謳いあげる「ひらた船」などどれもいいが、「皆白」はさすがお得意のマタギもの。懇意にしている薬屋の若者の儲け話にのってタブーである「ミナシロ」を狙う老マタギの物語。緊迫した展開なのに、ラストは拍子抜けしそうなほどあっさり。そのへんが逆にリアルかも。
 そしてラストは「川崎船(ジャッベ)」ある若い漁師の物語を力強く描いた傑作。漁船による「場トリ」のシーンは本書の中でも一番のアクションシーンだ。60年代のモノクロ映画のような骨太なイメージの作品だ。

 これらの作品は前述のとおり2000年から2002年に書かれているわけで、そう考えると本当に最近書かれた作品なのだ。今時こういう骨太と言うか重厚と言うか、こういう作風の作家って滅多にいないような気がする。何も知らないで読んだら60年代か70年代に書かれた物だと思うのではないだろうか。
 また作中に石巻や気仙沼といった今回の震災で大きな被害を受けた街の名前が出てくる。この作品たちの舞台は、今回震災で打撃を受けた地方なのだ。そう思うと胸が痛む。
.20 2011 日本文学 comment2 trackback(-)

comment

ご無沙汰しておりました。

piaaさんの薦めで熊谷さんの本を手に取った初めての本です。
確かに骨太で、生々しい自然が力強く描かれている印象を受けました。

この自然が震災により被害を受けたと思うと、
居た堪れない気持ちになりました。
東北に思い入れの深い熊谷さんの比ではないだろうと思いますが…
2011.06.07 16:03 | URL | 藤咲 #- [edit]
藤咲さん、こんばんわ

これは見事な短編集でした。次は「邂逅の森」をお読みになる事をおすすめします。ってこの二つしか読んでませんけど…
2011.06.08 00:27 | URL | piaa #- [edit]

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