スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
.-- -- スポンサー広告 comment(-) trackback(-)

スタニスワフ・レム 完全な真空


 レムの全作品中でも異彩を放つ「完全な真空」。これはさまざまな本についてのレヴューをまとめたという一見ごく普通の本なのだ。ただひとつ普通と違っているのは、ここで取り上げられている「本」がどれも実際には出版されていない、という事である。
 
 架空の本の評論、というのはレムのオリジナルのアイディアではない。前例はボルヘスの代表作「伝奇集」の中にも「『ドン・キホーテ』の作家、ピエール・メナール」という大傑作があるし、他にもいくつか例があるのだそうだ。しかしレムはここで架空の作品16冊を「書評」と称して取り上げ、それだけで一冊の作品集に仕立ててしまった。ここで取り上げられた作品はどれもこれも、もし実在していたら一筋縄ではいかないものばかりである。

 冒頭の「ロビンソン物語」は、ご存知ロビンソン・クルーソーのフォロアー作品のひとつ(という事になっている)である。そういう意味では日本ではアニメにもなった「スイスのロビンソン」や、このブログでも取り上げた「フライデーあるいは太平洋の冥界」などと同列の作品とも言える。この作品のロビンソンは自分の頭の中に架空の人物を次々と創作し、彼らをかしづかせる。しかし実際には仕事は全て彼が行うわけで、やがて人物が増えてロビンソンの脳内社会が複雑化してくるとロビンソン一人の手におえなくなり、この社会は崩壊へと向かう。これはちょっと前述の「フライデーあるいは太平洋の冥界」を大げさにした感じで、似てなくもない。「太平洋の冥界」のほうがこれよりも先に出ているわけで、ひょっとしてレムはトゥルニエを読んでいたのかな。
 「ギガメシュ」はジョイスの「ユリシーズ」の向こうを張る大作ということで、この「書評」に書かれているとおりならば、「ユリシーズ」に負けじと象徴や隠喩を盛り込みすぎて現実にはありえない作品になっているに違いない。どことなく前述ボルヘスの「『ドン・キホーテ』の作家、ピエール・メナール」を思わせる。「性爆発」は人類社会からセックスが消えたらどうなるかをまじめに考察したSF作品…という具合にこれでもか、これでもかと言わんばかりにレムのアイディアがあふれ出す。

 架空の本の書評集という形をとりながら、これはレム自身が構想しながら結局は書くことを断念した作品について書いたのではないだろうかとついつい思ってしまう。「とどのつまりは何も無し」は全てが否定形で書かれた作品。曰く『列車は着かなかった。彼は来なかった。』という風に。ごく短い短篇ならともかく、これで作品が成り立つとはとても思えない。一方、一人の人間がこの世に生まれる確率を論じる「生の不可能性について/予知の不可能性について」は普通の意味で非常に面白い。「泰平ヨン」あたりで普通に取り上げられそうなテーマだが、普通の小説に仕立てるよりもこの形のほうがいかにも他人事っぽくてクールで味わい深い。さすがだ。
 そして最後に置かれた「新しい宇宙創造説」。ここで語られるのは、要するに超文明論であり、ストルガツキーの「22世紀シリーズ」や「みにくい白鳥」などを読む時の参考に好適な1編。要するに『人類よりもはるかに(数千万年とか数億年の単位で)進んだ超文明は、もはや人類と接触しない』という考え方だ。従来のSFには(というか今のSFもそうなのだが)こういう視点が決定的に不足している。たしかにそれでは物語的に成り立ちにくいんだけど、レムとストルガツキーはこのルールを守っていくつもの傑作を書いている。

 独特の作品の作りながら、全体にはレムのアイディアが横溢した作品集として読める。「架空の本の書評集」と言う触れ込みからなにやら堅苦しい作品を創造する向きもあるだろうが、実際の作品はユーモアがあって非常に読みやすい。
 それにしてもレムらしい尋常ならざるひねり具合がまたファンにはたまらない。傑作だ。
.15 2011 スタニスワフ・レム comment2 trackback(-)

comment

「完全な真空」の書評は、実際に存在していたら読むのが苦痛なのではと思われる小説のものが多いのですが、この記事に取り上げられていない「親衛隊少将ルイ16世」と「ビーイング株式会社」はちょっと読んでみたい気がします。「あなたにも本が作れます」の世界は、案外現実のものになるかも。

2011.05.15 21:00 | URL | X^2 #CypyILE6 [edit]
>「完全な真空」の書評は、実際に存在していたら読むのが苦痛なのではと思われる小説のものが多い

全く仰るとおりですね。でもよく考えるとレムの著作はその大半が「読むのが苦痛」の部類に入るような気もします。そんな読みにくさまで愛してしまうのだからファンというのは困ったものですよね。

「虚数」の中の「ヴェストランド・エクステロペディア」がすでにPCソフトとして現実のものになっていることを考えると、「あなたにも本が作れます」もやろうと思えばわりと簡単に実現可能なのでは…などと思ってしまいます。
2011.05.16 00:34 | URL | piaa #- [edit]

post comment

  • URL
  • comment

  • password
  • secret
  • 管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

piaa

  • Author:piaa
  • Livedoorへ移転しましたので、そちらでお願いします。

    こちらのブログへのコメントはLivedoorに転載しますが、定期的にチェックしないので相当遅くなることもあります。

ブログナビ

P&M_Blog
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ --年--月
  ├ カテゴリー
  |  └ スポンサー広告
  └ スポンサーサイト
P&M_Blog
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ 2011年05月
  ├ カテゴリー
  |  └ スタニスワフ・レム
  └ スタニスワフ・レム 完全な真空

カレンダー

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

月別アーカイブ

カウンター

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。