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ペレス・レベルテ 戦場の画家


 岩波文庫だとなんだか高尚な本のような気がする。新潮や角川文庫だともう少しくだけた本という感じがする。
 昔南米文学を積極的に出してたりしてたし、今でもクンデラの作品を出してたりして、実際にはそんなことはないのだが、正直言って集英社文庫というとかなり軽い本という印象がある。だからこの作品もミステリに毛が生えたような軽いものを想像して手に取ったのだ。

 戦場カメラマンとしていくつかの賞も獲り、引退した後は画家として地中海に面した望楼で壁画製作に一人いそしむフォルケス。ある日見知らぬ男が訪ねてくる。マルコヴィッチと名乗るこのクロアチア人の男は、フォルケスを殺しにきたと言う。10年前にフォルケスに撮影された写真によって人生を狂わされたというのだ。
 彼らはフォルケスの作品を見ながらこれまでの人生や「戦争」について、「写真」や「絵」について語り合い、フォルケスは自分の過去に、そして自分の心に向き合うことになる…

 結論から言えば、これは傑作である。『軽いミステリに毛が生えたようなもの』なんてとんでもない。これはずしりと重い、極めてシリアスな作品だ。現代の、まだそこにある悲惨を描き出しながら、人間とはなんなのかを問い詰めていく。登場人物はたったの四人だけ。ほとんどなんのアクションもなく、ただマルコヴィッチがいるときは二人が語り合い、いない時はフォルケスの回想で進んでいくというスタイルが徹底した作品だが、そこで浮き彫りになる人間の本性と、それを間のあたりにし、見つめながらも絶望するでも諦観するでもない二人を延々と描き続ける。それでいて常に緊張感を保ち、全く長さを感じさせない。

 作者アルトゥーロ・ペレス・レヴェルテはスペインの作家。映画化された「ナインスゲート」などが有名。TV局の記者として戦場特派員を務めていたそうで、この作品にはその経験からか極めて生々しい描写が頻発する。レヴェルテ自身、戦場で悲惨な状況を目の当たりにしてきたのだろう。フォルケスの心情は作家本人の心情に重なる部分が大きいのだろうと想像できる。
 フォルケスの回想の中にだけ登場する、恋人のオルビド。『忘却』という意味の名前を持つこの女性が、フォルケスとマルロヴィッチの会話の鍵である。彼女は初めからすでに死んでいる事が明らかにされ、彼女の死の状況は最後まで伏せられていて、このアクションのない小説はそれを推進力にして進んでいく。それを可能にした構成の巧みさも光っている。
 数多くの絵画や写真作品の引用が多く、作者の造詣の深さを感じさせるが、大半の読者はピンと来ないかも。しかしだからといって読むのに不自由したりする事はない。巻末にまとめてある解説を見ながら後でネットでググるといいかもしれない。

 ひとつだけ残念なのは、訳文で会話の部分。フォルケスがマルコヴィッチに対して語るその語り口がすこしソフト過ぎる点だ。原文がどんなふうなのかはわからないが、敬語とそうでない話し方が混在するのはどうかと思う。このためフォルケスとマルコヴィッチのどちらのセリフなのか迷う箇所もあった。

 それはともかく、これはもっと話題になるべき作品だと思う。現代海外文学が好きな方にはぜひ読んでもらいたい一冊だ。
.10 2010 その他欧州文学 comment0 trackback(-)

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