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オルハン・パムク 白い城


 トルコのノーベル文学賞受賞作家オルハン・パムクが、1985年に発表した出世作。昨年末に邦訳が発売されたので早速読んでみた。230ページ程度の比較的短い作品だ。

 時は17世紀。ある日イタリア人の「私」は乗っていた船がトルコの艦艇に拿捕されてしまい、イスタンブールに連行される。「私」は学者である「師」のもとで奴隷として働く事になるのだが、「師」は「私」と容姿が酷似していた。「師」は様々な研究や発明に取り組んでいたが、それに協力していくうちに、「私」と「師」は切り離せない存在になっていく…

 パムクは以前「雪」という作品だけを読んだ事があるのだが、「雪」が政治的な内容の現代小説だったのに比べ、これは上に紹介したあらすじでも明白なように歴史小説である。「師」と「私」以外の登場人物はほとんどが歴史上の実在の人物であり、小説中で語られる事件も事実に即しているのだそうだ。
 ここではイスラム教徒の「師」とキリスト教徒の「私」の対立と同化が描かれているわけだが、読みはじめると拍子抜けするくらいに読みやすい。特に前半はかなりあっさり、言ってしまえばダイジェスト風に物語が進むのであれれ、という感じである。「師」と出会うまでの物語は、書こうと思えばそれだけでも大長編にできるのではないかとも思うのだが、パムクにとっては、「私」と「師」が出会うまでの物語には大した意味は持っていないという事なのだろう。そこから十数年にわたる「私」と「師」の物語が始まる。アイデンティティを探るため、机に向かい合ってお互いの過去について細かく書いていく作業をするシーンが印象深い。そうしてお互いの事を細かく知り理解しあった「私」と「師」は、やがてどちらがどちらなのかよくわからなくなっていく。いや現実にはそんなことはありえないような気がするのだが、情報の少なかったこの時代なら、そして自分とそっくりな他者と生活も仕事も一緒にするという彼らの置かれた異常な状況であれば、そういうこともあるのかもしれない。それでも筆者たる「私」は第9章まではなんとか自分を保っているのだが、最後の第10章に至ると、もはやそれを書いているのが「私」なのか、それとも「私」に成り変った「師」なのか、読んでいる者にもまったくわからなくなってくる。そしてあの衝撃的なラストで幕切れを迎える。

 「東」と「西」のせめぎあいを「私」と「師」の物語に託した、きわめて巧みに書かれた小説だ。作者の評価を一気に上げた作品と言われるだけの事はある。だけど個人的な感想を言わせてもらえば、正直あまり好きではなかった。パムクは自作について「基本的にはエンターテインメント」と言っているそうだが、良くも悪くもその通りだと思う。例えばこの作品の冒頭にある「序」。ここではこの物語全体が20世紀になって偶然発見された手稿であることが語られる。こうやって物語には強制的に、いわば「額縁」がつけられるのだが、作者はなぜこういうことをする必要があったのだろうか。ひねった効果を狙うSFならいざ知らず、普通の文学作品でこれをやると、ただ読者にこの作品がフィクションであるという事を印象づける効果しかもたない。この「序」が作品の品位を下げていると思うのは私だけだろうか。ラストも鮮やかと言えば言えるが、あざといとも言えそうだ。どちらも基本的な作品の内容以外の点で減点なのだが、これって実は結構作品の評価としては痛い。

 というわけで、私の個人的な意見としては前回読んだ「雪」のほうがずっとよかったな。まあこの「白い城」は比較的初期の作品だし、パムクの代表作と言われる「私の名前は紅」をまだ読んでいないので、ぜひ読みたい。作家自体の評価はそれからでもいいだろう。
.25 2010 その他欧州文学 comment4 trackback0

comment

piaaさんのレビューを首をながーくして待っておりました(笑)。
しかし、そうですか…微妙な感じですね。
西洋絵画手法を前にして敗れていくイスラムの伝統画法を根底に描いた「私の名は紅」がワタシはとても好きなので、この本を買おうと思っていたのですが。 どうしようかな。
ネットで検索したら、「白い城」はずいぶん初期の作品みたいですね。 そのせい?
2010.01.26 01:20 | URL | vogel #9JN9NMwM [edit]
vogelさん、こんばんわ。

いやこれは私の好みでなかっただけで、小説自体は素晴らしいものだと思います。でもこの分量で2200円は正直高いですね。図書館本でOKかと。
パムク、ノーベル賞作家にしてはわりと俗な感じの作風なんでしょうか。この「白い城」、なんだか流行作家のエンターテインメント作品みたいな、内容のわりには軽いタッチのの作品でした。

「わたしの名は紅」はいつか読みたいと思っているのですが、私の町の図書館に置いてないんですよね~
2010.01.26 23:52 | URL | piaa #- [edit]
こんばんは。本作、パムクがブレイクしたきっかけということですが、「東洋と西洋のせめぎあい」という、西洋が大好きなテーマだからなのかなあ、と思いました。
イスタンブールの町を思い浮かべながら読むととても楽しいのですが、パムク自身がいうように、「エンターテイメント」なのですよね。

つくづく自分は小説に「うまいオチによるカタルシス」を求めていないのだなあ、と思いました。それだったら思いっきり突き放されて呆然とする方がよいです(……Mでしょうか)。
2010.02.11 21:10 | URL | ふくろう男 #TT0fzUCU [edit]
そうなんです。良くも悪くもエンターテインメント。この作品は題材のわりには読みやすい反面、やや深みに欠けた印象が強かったですね。

>うまいオチによるカタルシス」を求めていない…それだったら思いっきり突き放されて呆然とする方がよい

私もそう思います。Mじゃないですよ。多分(笑)。
2010.02.12 22:11 | URL | piaa #- [edit]

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