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梶井基次郎 檸檬・冬の日 他九篇


 実はこの本は一年位前に読みかけて挫折していた本で、今回は他の読書の合間に少しづつ、けっこう時間をかけて読んだ。なのではじめの方の作品の印象は一部曖昧な部分もあり、その点ではあまり正確なレビューとは言えないかもしれないのでご了承を。

 梶井基次郎は1901年生まれ。1932年に31歳の若さで亡くなっているが、その間に19篇の短編を遺している。そのどれもが簡潔な描写と独特な詩情に溢れていて現在では古典として認められている。
 この岩波文庫版ではその梶井の代表的な作品10篇と、習作や未完の作品の断片までが収められている。

 冒頭に置かれた「檸檬」の、この密度の高い描写はどうだ。前回読んだ時にはこの作品のあまりの密度の高さに恐れをなして他の作品に読み進めなかったのだ。わずか8ページの作品ながら、このずっしりとした手ごたえ。ストーリーは単なる半病人の妄想に過ぎないのだが、これがこれだけの文学作品に昇華してしまうのだからすごい。その一方でこれはかなり読み手を選ぶ一作で、あまりにも抽象的で簡潔な作品だけに、いいと思えない人も多いのではないだろうか。

 そのあとには、わりと普通に読める作品が並ぶが、そのどれもがなんとなくうす暗い雰囲気を持っていて、大半の作品は結核患者のよるべない生活の断片が描かれている。という事は言い方を変えれば似たり寄ったりのプロットの作品が多いわけだが、エッセイのような「闇の絵巻」「交尾」といった作品が置かれたりして変化もある。圧巻は最後の作品とされる「のんきな患者」で、ここでは梶井の絶望がアイロニーの形をとり、死が目前にちらつく絶望の日々がユーモラスに語られる。臥せっている部屋に侵入した猫との死闘や通りすがりの女性に「あなたはひょっとして肺がお悪いの?」と尋ねられてショックを受けるとか、そんな笑えるような笑えないようなエピソードを淡々と綴っていく鬼気迫る作品だ。
 更にそのあとに収められた「瀬山の話」は、「檸檬」の原型になった部分を含む習作で、「檸檬」という作品の成り立ちを知る上で貴重な一作。この中の「檸檬」の部分と、後に独立した作品として成立した「檸檬」を読み比べるのも興味深い。

 どの作品もかなり重いテーマの作品で、それぞれの作品はごく短いながらもずっしりとした読後感がある一冊だ。これから読もうかな、という人は気合を入れて。
.24 2009 日本文学 comment(-) trackback(-)

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