スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
.-- -- スポンサー広告 comment(-) trackback(-)

ル・クレジオ 黄金探索者


 ル・クレジオは前回「黄金の魚」という作品を読んで、正直ピンと来なかった。
なのでこの本も、ル・クレジオには期待せず、トゥルニエの方を読みたくて図書館から借りてきたのだ。
…そして私は、とんでもない間違いをしてしまったことに気づいた。

 まず言っておく。この本は買いなさい。図書館から借りちゃダメだ。私も買う。
 買って、読んでしまったら本棚の、いつでも手の届くところに置きなさい。
この作品には、青春の輝きと、無謀な冒険と、愛がつまっている。一生忘れられない一冊に、人生の宝になる。そんな作品だ。

 主人公アレクシは少年時代を、モーリシャス島プーガンで実業家の父と美しく聡明な母、そして気が強いがこれも美しい姉のロールとともに経済的に恵まれた環境の中で過ごす。しかしある日父の事業が経営難に陥る。発電所建設で起死回生を狙った父だったが、嵐が全てを破壊しつくしてしまう。失意の中父は亡くなるが、アレクシは父の遺品の中から、昔海賊が埋めたとされるロドリゲス島の埋蔵金のありかを示した宝の地図を見つける。18歳になったアレクシは、ゼータ号という船に乗せてもらってロドリゲス島へ向かう。そこで宝探しを続けるうちにウーマというクレオールの少女と出会い恋に落ちる。しかし宝は見つからず、やがて時代は戦争という大きなうねりに飲み込まれていく。

 この作品の魅力は多岐に渡るが、まず女性キャラクターが魅力的で、白いワンピースを着て港に立つ姉・ロールのイメージが鮮烈。気が強い女性だが、女である自分がアレクシのように旅立って行けないことをよく理解している。アレクシとは強い愛情で結ばれていて、アレクシとロールが手を繋いで歩くさまは、「まるで恋人同士のよう」だとこの物語の語り手であるアレクシ自身が表現する。
 そしてもうひとりのヒロインはロドリゲス島に住むインド系クレオールのウーマだ。アレクシが熱病で倒れた時に看病してくれた彼女は、山の上に住む一族の娘で、神出鬼没の不思議な娘だ。

 それから見事な構成。アレクシとロールの少年時代を描く長い第1章「プーカンの谷 1892年」とアレクシが船出するまでを描く第2章「フォレスト・サイド」をプロローグとみなすと、その後の5章は中央に第1次大戦の従軍記を挟んだシンメトリカルな構造をとっている。さらに宝探しの謎解きも、地上の地図と星の配列が対応する事に気づき、ほとんど正解が見えたと思いきや、またしても嵐が全てを破壊していってしまうのだが、ここでも父が全てを失うことになった嵐との対称性がはっきり現れていて、物語的に非常考えられた構成であると言える。
 ロドリゲス島への船旅を描く第3章「ロドリゲス島へ 1910年」はベタな海洋小説など吹っ飛んでしまうような見事なまでの美しさで描かれてとても印象的だ。そういうたくさんの魅力が詰まった傑作だ。

 小説全体にたゆたうような潮騒のイメージが鮮烈。以前読んだ「黄金の魚」同様、けっしてテンポの早い小説ではないし、物語にそれほど多くの起伏があるわけではない。読者によっては私が「黄金の魚」を読んだ時に感じたようなとりとめなさを感じるかもしれない。しかしここではその「とりとめなさ」さえも魅力のひとつである、とさえ言える。細かい描写や表現の美しさは本当に見事。そしてポジティブな世界観。その世界の美しさに強烈に心惹かれる。だからずっと読んでいたくなる、読んでいるとずっと終わってほしくないと思える、そんな作品だ。

 少年の心を忘れない、忘れたくない、あるいは忘れてしまったあなたに、ぜひ読んでほしい。
 そして本棚の、いつでも手の届くところに置いてほしい。
 少年の心を忘れそうになった時に、いつでも手にとって読み返せるように。
.04 2009 フランス文学 comment2 trackback0

comment

自分の大好きな作品が誉められるというのは嬉しいですね。ル・クレジオのことはずいぶん昔から知っていたけど、初期の作品は難解でどれも挫折、10数年前にこの黄金探索者を読んでから、やっと本格的にのめりこみました。(年齢がばれますね。)本当にこれは生涯、何度読み返しても感動できる傑作、と思ってはみたものの、の作品を評価する声は当時、あまり聞きませんでした。最近は、ル・クレジオ自身も、ノーでベル賞をとったにも拘らず日本での盛り上がりは今ひとつ、ファンとしてすねていたのですが、池澤さんの全集がやっと出版されたようで、このブログに出会いました。黄金探索者に感動いただけたのでしたら“砂漠”もきっと気に入ってもらえると思います。ただし、テンポはさらにゆっくり、砂漠の民の移民の少女が主人公、と言う点では黄金の魚と似た点もありますので、その点は覚悟の程を(笑)。まあル・クレジオは筋書きで読ませる小説家ではないし、むしろ詩に近いのが彼の作品の特質ですから。
主人公の名前がアレクシとなっていますが、私の持っている版ではアレクシスになっていたので、訳者の中地さんが改訳をしたのかな。併録のトぅルニエ、“フライデーあるいは太平洋の冥界”、これも、もうX十年前に読んだきり。とすれば、これはもう一度、買いなおすしかありませんね。

黄金探索者以外にも戦争の悲しみとか私の好きな作品をたくさん紹介なさっているようで・・・これからはちょくちょくお邪魔させていただきます。
2009.09.15 22:01 | URL | kenjikien #- [edit]
kenjikienさん、コメントありがとうございます。

とても気に入った作品なので、以前からお好きだったという方のコメントがいただけて私も非常に嬉しいです。
これは本当に素晴らしい作品でした。まだ買ってなくて現在家にないのが凄く悔しい一冊です。私ももっと早くこの作品に出会いたかった…
ル・クレジオ、他の作品もぼちぼち読みたいと思っています。

ちなみにkenjikienさんがお好きだとおっしゃるバオ・ニンの「戦争の悲しみ」は、「P&Mアウォード2008」の記事でも書いてるように、個人的に私の昨年読んだ本のベストワンでした。この「黄金探索者」も今年のベストワン濃厚です。
2009.09.16 00:43 | URL | piaa #- [edit]

post comment

  • URL
  • comment

  • password
  • secret
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackback

trackbackURL:http://piaa0117.blog6.fc2.com/tb.php/1199-1952dd01

プロフィール

piaa

  • Author:piaa
  • Livedoorへ移転しましたので、そちらでお願いします。

    こちらのブログへのコメントはLivedoorに転載しますが、定期的にチェックしないので相当遅くなることもあります。

ブログナビ

P&M_Blog
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ --年--月
  ├ カテゴリー
  |  └ スポンサー広告
  └ スポンサーサイト
P&M_Blog
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ 2009年09月
  ├ カテゴリー
  |  └ フランス文学
  └ ル・クレジオ 黄金探索者

カレンダー

06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

月別アーカイブ

カウンター

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。