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高橋しん 最終兵器彼女


 いわゆる「セカイ系」の代表的な作品。以前から読みたいと思ってはいたのだが、今回全七巻一気読みした。

 北海道の地方都市(名前は出てこないが小樽市である)の高校生シュウジは、同級生のちせと付き合いだすが、なにしろ異性と付き合うのはお互いにはじめてのふたりはどうしたらいいのかよくわからない。そんなある日、札幌がいきなり国籍不明機による空襲を受け、遊びに来ていたシュウジと彼の友人も巻き込まれる。そこでシュウジは敵機を次々に破壊するそれを目撃してしまう。それは自衛隊によって体に改造を施され最終兵器となったちせの姿だった。

 とにかく突っ込もうと思うといくらでも突っ込みどころのある作品である。まったく何も説明されない。なぜ普通の女子高生であるちせが最終兵器になったのか。ちせは戦う時背中からメカの羽が生え、体のどこからか二の腕ほどの太さのミサイルを次々に発射する。このあたりは物理的にどう考えてもおかしい。いったいどんな改造を施されたのか。ちせの装備したものはとんでもないオーバーテクノロジーで、別の使い方をすれば戦争などする必要もなかったかもしれない。日本を攻めてくる「敵」がどこの国でどんな目的を持っているのかも全く明かされない。

 …というわけで、この作品を「SF」とか「ミニタリーSF」と思って読むと、正直全くなっていない作品だ。しかしこの作品はそういう読み方をすべきではない。この作品は『恐ろしく巨大な障害を与えられたカップルの愛の物語』として読むべきなのだ。もちろん、普通に読めばそういう読み方で読む作品である事は当然なのだが…
 SFとしての結構が示されず、『SF的状況下に置かれた人のリアクションだけを描いた』作品というと、先日紹介したアメリカ映画「クローバーフィールド-HAKAISHA-」が思い浮かぶが、これはあの映画に似たスタンスの作品だ。あれが異形の怪物に破壊される街で恋人を救おうとする映画なら、こちらでは戦争とか異形の兵器を背景にして、高校生の恋愛が描かれる。
 『滅び行く世界』を描く、似たような世界観という事で言えばアニメの「エヴァンゲリオン」や、田中ユタカの「愛人Ai-ren」が思い浮かぶ。まあ「エヴァ」は途中で物語が破綻してしまったし、主人公たちの恋愛関係が希薄なので置いといて、「愛人」との比較で言えば、ぶっちゃけ『「愛人」の、うまく行かなかった部分をすべてクリアした作品』と言っていいだろう。

 「愛人」でうまく行かなかった部分というのは、主人公たちの生活と世界が今瀕している危機との間に切迫した繋がりが見出せないということだ。この作品で作者は、主人公たち(イクルとあい)に限られた命を設定してしまった事で、彼らが滅亡に瀕した世界に危機感を覚える機会を与え損なった。このため国連総長のカマロが語る世界の危機も悲惨も、イクルたちの心情には触れてこない。大局的な悲劇と、個人的な悲劇が別物になってしまったのだ。ところが「最終兵器彼女」では、ちせが巨大な力を持った事で、彼女を愛するシュウジも世界の危機に向きあわざるを得なくなる。恋愛もの、として見た場合も、ずっと好き好きと乳繰り合っている「愛人」のイクルとあいとは違って、シュウジとちせはお互いに年上の異性に惹かれてしまうなど、結構リアルな描かれ方もされている。

 先ほどこの作品を『恐ろしく巨大な障害を与えられたカップルの愛の物語』と書いたが、普通の恋愛小説というものは、ふたりが出会い、恋に落ち、何らかの障害…周囲の反対であったり、病気であったり、あるいは戦争だったり…を乗り越えて、ふたりの絆が固まるといった感じで進むものだと思う。そう考えると「最終兵器彼女」はその「障害」の部分が破滅であり、しかもヒロインがその破滅に深く関わっているというだけなのだ。その部分をはずして読むと、こうなる。『高校の同級生カップルのシュウジとちせがつきあいだすが、シュウジは以前関係のあったふゆみと、ちせはバイト先の先輩テツに惹かれたりしながらも愛をはぐくんでいく。やがて駆け落ちしたふたりは海辺の町で暮らし始めるがちせの体の具合が悪くなって故郷の町に戻る。故郷の町の思い出の場所で再会したふたりはついに結ばれる。』これだとまったくベタな恋愛小説で、ケータイ小説並みだ。この作品はそういうベタな恋愛小説を「最終兵器」とか「終末戦争」とかの要素で強力にデフォルメした作品なのだ。

 批判めいた事ばかり書いているが、実はこの作品はかなり気に入っている。上に書いた事とは別に、絵だって特にうまいとは思わないし、所々にまぶしたギャグのせいで緊張感が失われるシーンがあるとか、エロ描写がどぎついとかの問題もあるが、そんなことは実は瑣末な事で、この作品には独特のなんともいえない魅力がある。破滅的な戦争の中でもしぶとく生きる人々の姿がリアルに描かれている所とかもそうなのだが、シュウジとちせのお互いを思う恋情が、中年の私にはとてもノスタルジックに感じられ、読み終わったあとも何度もパラパラページをめくってみたくなる。
 だから、曖昧なラストがとても残念だった。ちせは小樽に集まった人々を(苦しませずに)皆殺しにしたのだと思われるが、本当にその希望の無い終わり方しかなかったのだろうか。ラストだけはかすかな希望を残した「愛人」の方に軍配を上げたい。
.22 2009 コミック comment2 trackback0

comment

この作品、イマイチ好きになれませんでした。
この作者の前作「いいひと」が好きだっただけに。

どうも要所要所に「反戦」的なメッセージが感じられたのですが、私だけかな。
戦争という国家間のエゴで引き裂かれる二人!とでも言いますか。
だから戦争反対!みたいな。そりゃそうだけど。

この作者、似たような設定で一話読み切りの漫画も書いています。
戦場のど真ん中にぼろぼろの制服の女子高生が一人!って話です。
予想通りというか、夢も希望もないラストです。

「いいひと」がサラリーマンの悲哀を見せつつも活路を見いだそうする話なのに対し、あまりにも反国家、戦争反対!というテーマばかりが感じられた作品でした。私にとって。
連載中のころをよんでいた自分の感性が幼かったのかな…。
2009.06.22 22:56 | URL | 平戸出身 #- [edit]
う~ん。確かにそういう風に読むこともできますよね。
でもこの作品作者の描きたかったのはあくまで「高校生カップルの恋愛」なのだと思います。ふたりの恋愛の成就を阻む究極的な障害として「戦争」や「最終兵器」を配しているわけで、私には「反戦」とかは二次的なテーマと感じられました。
反戦マンガとしてなら、最後のほうはもうちょっと宗教的な感じが出せたような気もしますね。そしたらもうちょっと説得力あるラストがありえたかも知れません。その辺はこの作家の限界だったか?

「いいひと。」は読んでいません。サラリーマンが主人公のマンガは興味がわかないんですよね。長すぎるし(笑)
2009.06.22 23:19 | URL | piaa #- [edit]

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