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江國香織 神様のボート


 先日亡くなった義妹の本をRINRINが貰ってきたなかの一冊。江國香織は昭和39年生まれの女性作家。評判は聞いていたがはじめて読んだ。

 30代の女性葉子とその娘草子の暮らしを数年にわたって描いている作品だが、とにかく終始ひんやりした印象の冷たい物語だ。葉子というヒロインは、草子の父親でかつて愛しながら別れた男性(「あのひと」)と再会する日が来るのをかたくなに信じている。別れ際に「あのひと」が言った「必ず探し出す」という言葉を信じ、探し出してもらうためだけに各地を転々としている。2年位住んでは引越しを繰り返す生活に、だんだん成長する草子は不満を感じるようになる。

 葉子の考え方は明らかに異常で、まったく地に足が着いていない。「あのひと」との愛の日々に固執し、新たな人間関係を作ることにまったく興味が無い。興味が無いというよりも否定し続けていく。そしてさらに悪い事にはそれを娘である草子にも強要するのである。そうして一種の虐待を受け続けた草子は、高校進学にあたって寮に入り葉子の許を去る決意をするのだ。
 葉子の生き方は生きているとは言えても生活しているとは言えない。引越しする時に「(思い出を)箱の中にしまっていくの」と草子を説得するが、自分は「あのひと」のことを決して「箱の中」に入れようとしない。子供はそういう矛盾には敏感だ。草子がそう主張して逆襲するのは当然といえば当然である。

 そして葉子は16年ぶりに東京へと戻ってくる。そこで実家の両親や桃井先生と再会するが、「あのひと」が自分を探して現れた事を聞く。そしてあの問題のラストシーンになるのだが…
 AMAZONのレヴューを見ると、このラストをハッピーエンドと捉えている読者が多いことに驚いてしまう。私としてはハッピーエンド説は断固否定する。ただ作者はわざとそうとも取れる書き方をしていて、ここがまたこの作家のズルい所である。
 その前の段落に葉子がジントニックを飲みながら「死」について考えるシーンがあることから、これは葉子が死んでしまったあとの「死後の世界」のシーンだという解釈をしている方もいる。こちらの方が可能性としてはありそうだが、私は単純に酔って幻覚を見ているだけだと考える。死後の世界にせよ酔って幻覚にせよ、いずれにしても葉子の孤独が浮き彫りになる非常にきびしいラストシーンだと考える。

 作品は葉子視点と草子視点が混在している書き方をされていて、しかもそれぞれが特段に文体が変えて書かれているわけではなく、そういう意味では小説を読みなれていない読者にはちょっとわかりにくい部分もあるかもしれない。そこさえクリアしたらあとはかなり読みやすい。

 小説全体の私の読後感としては、昔の愛の思い出のために生涯を棒に振る女性というのは、考え方によっては(葉子の言うとおり)非常に幸福なのだとは思う。だが母親である以上は葉子のような人生を送る事は許されないと思うのだ。で、いつの間にか草子への依存度が高くなってしまった葉子は自立しようとする草子を目の当たりにしてたじろいでしまう事になるのだ。これは葉子の「あのひと」への偏愛の物語であると同時に、大人になりきれない母と大人になろうとする娘の相克の物語でもあると思う。その物語ははじめにも書いたようにひんやり冷たい。江國香織という作家の筆力は本当に素晴らしいもので、かなり高いレベルにある作品だが、何度も読むような作品ではないとも思った。
.12 2009 日本文学 comment(-) trackback(-)

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